李春根
経済学を勉強しなかった人々でも国家が自由に交易できるようになれば交易する国々全部に利益になるという事実を知っている。国家でなく個人関係においても同じだ。自分がよく作れる物を作って市場で売って自分がよく作れない物を買うのは人類皆に利益になるため市場は人類社会の自然的な秩序として定着した。もちろん、個人や国々がより多くの利益を取るための方便として市場を歪曲する場合があった。自分の物はできるだけたくさん売るが他人の物はできるだけ少しだけ買おうとする各種の規制措置などがそれだ。それで国家間の取引の結果が不公平になり得た。
FTAは経済領土を世界へと拡大し国を富強にし得る方法
このような国際間の取引の問題点を解決するための方案の一つが国家間あるいは地域間に行なわれる自由貿易協定(FTA)だ。韓国はチリと自由貿易協定を締結した後、米国、ヨーロッパと自由貿易協定を締結して韓国の経済領土を世界へと拡大している。チリとFTAを締結した時、韓国のブドウ農場は全部死ぬと騒いだが、韓-チリFTAため韓国の農業が破綻したことはなかった。ヨーロッパとのFTAは比較的順調に国会の同意を得た。
ところが、韓・ヨーロッパFTAより先に始めた韓-米FTAが大韓民国国会でひどい目に遭っている。米国はすでに議会で韓-米FTAに同意し、韓国議会の同意の手続きだけが残った状況で野党の必死の反対のため正常な議論を通じて韓-米FTAが韓国議会の批准同意が受けられるのかは未知数だ。野党議員たちはFTAを「愛国か売国か」という二分法で反対しているが、そういう単純論理で言えば韓-米FTAを締結するのが愛国だ。韓-米FTAを締結することがわが国の働き口も増やし結局わが国をより一層富強にすることのできる確実な方法であるからだ。
この頃の大韓民国では前後の論理が合わないことがあまりにも沢山起きるため別に驚くことでもないが、韓-米FTAは、そもそも今韓-米FTAを決死反対しているまさに彼らが始めたものだ。今は野党として反対しているが、彼らが与党だった時に追求したことだ。貿易で生きる大韓民国の働き口は貿易をもっと行なってこそ増えるというのが常識だ。与党の時韓-米FTAを推進した現在の野党の人々も全部知っている常識だ。
しかし、このような常識を集中的に間違った方向へ導く勢力があるためわが国民が正しい判断ができない場合がしばしばある。卒業後の働き口を心配する大学生たちが働き口を増やせる韓-米FTAに反対しており、税金が重くて大変だという商人たちが福祉を拡大すると言っている候補に投票する。
韓-米FTAは大韓民国全体に利益、被害を蒙る分野を労わるのは政治家の役割
世の中には如何なることでも良い面と悪い面が同時に存在する。韓-米FTAは100%良いことでも、100%悪いことでもない。韓国民大多数に良いことだからやらねばならないのだ。民主主義国家で多数の国民が望む候補が選挙で当選するのと同じ理屈だ。普通きわどい差で決着がつくものである選挙と比較すれば、FTAはわが国民にあまりにも大きな利益をもたらす。
わが国は工業国家だ。国民総生産の圧倒的な部分が工業から生まれる。韓-米FTAを締結することはわが国の自動車、電子など工業分野に翼をつけるのも同然のことになる。わが国の普通の人々の暮らしは以前よりもっと潤沢になる。その上、米国の安い食料品のためわが国の多数の国民は食費が減る。この主張に対してそれでは大韓民国の農業は滅びるのではないかと食って掛かる人々がいる筈だ。
だから計算をすべきだということだ。大韓民国の農民が一時的に損害をこうむるかも知れない。だが、窮極的に大韓民国全体が利益を得る筈で、その利益は農民の損害を挽回してあまる。政治がやるべきことが何か? このように得られた余剰利益をもって被害を蒙った農民たちの面倒を見てあげれば良いではないか?
政治家たちは国民をリードしなければならない。間近に迫った選挙でひたすら当選せねばならないという一念で何が国家利益で何が個人の利益なのかも区分できない政治家らは淘汰させねばならない。筆者は経済学者ではないが、韓-米FTAを通じて大韓民国はもっと良い暮らしができるだけでなく、もっと安全になれると確信する。韓-米FTAは、韓米同盟がより一層忠実になる契機にもなるからだ。数年前読んだFTAに関する立派な分析を結論として引用する。
In earlier eras countries had tried to be self-sufficient, but now they focused on producing and exporting what they did best and trading for the rest. …. The new international division of labor divided families, villages, and countries, forcing tight knit traditional societies apart. …. Displaced farmers and workers on all continents suffered, but overall they, or at least their children and grand children, were likely to be better off. (過去の国々は自給自足のために努力した。ところが今国々は自分たちが一番よく作れる物を輸出し、そうではない物は輸入する…国際的分業は家族と村と国家を分裂させ、親密だった伝統社会を破綻させた。 …すべての大陸で国を追われた農民たちと労働者たちは苦しめられた。だが、全体的に見た時、少なくとも彼らの子供たち、あるいは孫らは彼らより良い暮らしができるようになった。[Jeffrey A. Frieden,Global Capitalism:Its Fall and Rise in the Twentieth Century (New York:Norton,2006),pp.21-25].
国民はそうでないこともあり得る。しかし、政治家たちは未来を見通せねばならない。目の前の利益、目の前の金バッチに恋々とする国会議員たちでないことを願う。韓-米FTAは、大韓民国の未来のために非常に良い装置の一つだ。
*この文は韓国経済研究院ホームページの国際情勢解説に掲載(2011.11.8)したものです。