ソウル市長選挙 保守の敗北と権力はいかに(1)

積もった保守の鬱憤 “寿命”尽きたハンナラ党、突破口はどこに?
日付: 2011年11月02日 14時59分

 ソウル市長補欠選挙で、予想どおり汎左翼統合候補の朴元淳氏が当選した。呉世勲前市長が発議したソウル市住民投票と呉市長の辞任から2カ月後に親北左翼ソウル市長が出現した状況は、まさに革命的で一種の政変だ。もちろん、今回も地方では既存の政党出身者が自治体長に当選した。だが、選挙戦でインターネットと携帯電話、そしてSNS(インターネットの個人間交流サイト)が主な手段として用いられた。これからの選挙は「ジャスミン革命の変種」ともいえる状況になることを当分覚悟せねばなるまい。

国民の覚醒、政治の確立、新しい運動が必要

 朴元淳市長の登場は、盧武鉉大統領の登場を彷彿させた。庶民にはほとんど馴染みのない候補が突然浮上し、世代交代や革新などを掲げ、候補に対する客観的な検証をする時間的余裕を十分に与えないまま投票に突入する。金大中元大統領の後押しによって浮上した盧武鉉候補のように、朴元淳候補も安哲秀ソウル大学教授の立候補辞退によって浮上した。そしていわゆる「風」の勢いで決着をつける。
 韓国の選挙では、特に野党はそもそも伝統的に「風」に頼りがちだったが、親北勢力が政党の主導権を握ってからは、「風」を超えて有権者を徹底的に煽動することが選挙戦略・戦術の中心となった。
 与野党が有権者の信頼と支持を決定的に失ったのは自業自得だ。「ボス政治」や派閥争いに明け暮れる政治に、有権者はうんざりしていた。建国以来の伝統的野党を継承し「民主化勢力」を自任してきた民主党が、金大中・盧武鉉政権を経て親北左翼の「宿主」化していたことも明確になった。
 一方、第6共和国(1988年)以降、つまり東西冷戦後、韓国にはハンナラ党を含めて右派の保守的価値を代弁する政党がいつの間にか消滅した。ハンナラ党は限りなく左派路線を真似してきた。真の保守層から政治エリートを充員したこともない。ハンナラ党は後継勢力の確保に無関心で、組織としての青年対策もない。
 これは、ハンナラ党はすでに政党としての寿命が尽きていることを意味する。今までハンナラ党が選挙で票を得られたのは、ハンナラ党の持つ理念やビジョンのためでなく、保守右派の有権者たちによる親北左派への反対の意思表示のためだったにすぎない。
 愛国保守有権者は、鬱憤が積もっている。法治も回復しなかった李明博政権とハンナラ党にだけでなく、大企業に対しても裏切られているという感情を持っている。大企業は金大中政権以来、左派の金づるの役割をしてきた。彼らは自分たちを攻撃する左派の「職業革命家」たちには口止め料として金を渡すが、自由民主主義と市場経済を護るための戦いには無関心だった。今回既存政党から権力の奪取に成功した親北左翼勢力の「参与連帯」、「アルムダウン(美しい)財団」、「希望製作所」などは、潤沢な資金力を誇っている。
 来年の選挙に臨む各政治勢力の公約は、左翼の仕掛けによって触発された学校の無償給食や大学授業料半減など「福祉拡大」路線ですでに固まった。生涯福祉を自慢してきた南ヨーロッパの国々の国家破綻危機を見ながらも、そして韓国の財政状況が脆いことを認めながらも、である。
 核武装した「金氏王朝」や急激な軍拡を続ける中国と国境を接して、しかも2015年の韓米連合軍司令部の解体を前にして、安全保障費を削って福祉予算を増やすという政策を出す政党の亡国的振る舞いは、国家安保を考えるならこれ以上許されない。
 では、韓国の保守右派は左派ポピュリズム煽動にどう対抗すべきなのか。まずは、親北左派に騙された有権者の目を覚ます努力が緊急課題だ。偽りと憎悪と煽動を克服するため真実を知らせ、正しい歴史を教え、そして利己主義に陥っている国民に未来へのビジョンを示すことだ。
 何より、李明博政権が放棄した法治の確立を愛国保守勢力が率先してやらねばならない。文明国家、先進国とは法治国家である。反逆や違法行為をした人物が選挙によって重要な公職に就けないように、監視・検証活動を展開せねばならない。当選が免罪符になるようにしてはならない。
 実は、韓国の愛国・保守勢力は、強力な武器と有利な条件をもっている。南北の左翼勢力の攻勢を阻止し一挙に逆転させられる。それは1世紀以上奴隷状況に置かれている北の同族を解放することだ。北の同族に自由を与えることこそ同族への最大の福祉であり、同族に自由を与える自由統一を通じて韓国社会の閉塞状況は一挙に解決できる。韓国は世界のどの国よりも、また先進国らが持っていない最も有利な条件を持っているのだ。自由統一がもたらす途方もない恩恵を国民的に自覚してもらうだけでも韓国社会は明るくなり、楽しく前へ進むことができる。
 政党は指導者を輩出し、指導者によって代表される。韓国の保守勢力はもはや寿命が尽きたハンナラ党にこれ以上頼らず、日和見主義者などの参加も期待せず、茨の道を切り開く覚悟で自由統一を目指すべきだ。
 勝利者の精神をもって、間違った歴史観に染まった若者を教え直し、焦らず新しい国民運動を始めればいい。種は蒔かれている。真の保守の結社を作るために、まず遠大な目標を立てることから始めることだ。

各国メディアの反応

 ソウル市長選での朴元淳候補勝利を、海外のメディアはどう伝えたのか。アジアと欧米メディアの報道を一部抜粋形式で紹介する。

李政権にきつい一撃-フィナンシャル・タイムズ(英)
 福祉にもっと金を使えという有権者の明らかなサインだった。この結果は、ギリシャのような経済危機に陥る危険性を指摘してきた李明博政権にとってきつい一撃になる。
 選挙はきわめて個人的な戦いになった。朴候補は彼の学歴詐称や北韓へのスタンスを問われた。羅候補はスキンケアにいくら使ったかと、障害を持った娘を過度に露出させすぎという批判への対応に追われた。

不安定さを残す勝利-新華通信(中国)
 政治初心者である朴候補の勝利は、韓国の若い民主主義が生んだ既存政治への反発が反映されたものといえる。彼の人気はひとえに若い有権者からの絶大な人気を誇る安哲秀氏の存在によるところが大きい。朴候補は候補一本化に敗れた民主党からの支持を得ていたが、専門家は両者の関係が不安定で、何かの問題で分裂する可能性もあると指摘している。

古いシステムへの挑戦-ニューヨーク・タイムズ(米)
 選挙は、政界の権威的なスターとアウトサイダー、朴槿惠氏ともう一人の有力大統領候補である安哲秀氏の戦いとして、全国的な注目も浴びた。安氏の援護により、朴候補は20代から40代の有権者から、羅候補の2倍の票を得た。
 安氏の「爆発的人気」と朴候補の台頭は「既存の政党に対する人々の失望を反映したもの」というのが韓国大学のイ・チョンヒ教授の分析だ。ソウル大学のカン・ウォンテク教授は「人々は政党の再編を求めている」という。地域対立や北韓に対する理念の分裂という古いシステムを揺るがそうとしたのだ。

政権再交代のサインか-ウォール・ストリート・ジャーナル(米)
 この選挙結果は、08年から議会の多数派と大統領のポストを占めてきた保守系のハンナラ党を揺るがしている。ハンナラ党は過去数回の選挙で地盤を失ってきた。これは4年に1度の総選挙で繰り返されてきた政権交代が再び起き、与党がその次の4年間力を失うというパターンが続くということである。


閉じる