幽霊たちとの「歴史闘争」を始めながら

ポルジョンソンの「モダン タイムズ(Modern Times)」を紹介
日付: 2011年09月19日 09時12分

黄晟準
高校国史教科書への関心が高まっている。最近国史を必修科目にするという政府発表が出てからさらにそうなった。ある国が自国の歴史を必修課目でなく選択科目にしたということ自体が国家としての機能を放棄し「協会」水準に転落したことを意味することかも知れない。さらに深刻なことは国史の必修科目化に「恐れ」を感じているのがわれわれ保守右派陣営という惨めな現実だ。
国史科目必須化が不安な理由
認めたくないが、現在の国史、特に近現代史は左派陣営にほとんど掌握されている。したがって、現行の教科書や今の教師陣をそのままにしての国史を必修科目にすることは、左翼陣営の理念的ヘゲモニーを強化させる措置になる可能性が高いだけだ。
われわれは若い層の文化的イデオロギー的ヘゲモニーを左派陣営に奪われた。せめてもの経済学をはじめ一部分野で相当な反撃がなされている。自由企業院とハイエックソサエティーなどの猛活躍で自由市場理論がそれなりに基盤を確保しつつある。しかし歴史学分野はまだそうでない。
多くの左翼青年たちの心を捉えている本の一つである趙廷来の小説「太白山脈」の終わり部分を見れば意味深長な話が出る。全滅状態に置かれたパルチザン残党らは「現実闘争」で敗北したのを認める。しかし彼らは投降しない。彼らは闘争方式を転換させて最後まで闘争することを誓う。今や「現実闘争」は「歴史闘争」に変わった。この小説本の最後の場面で最後のパルチザン残党たちは歴史闘争を誓いながら消える。まさに彼らの頑強な歴史闘争の結果が今日問題の歴史教科書の姿で復活したのだ。
「太白山脈」の主人公の廉・サンジンは、春窮期を乗越えられず飢えて死ぬ農民たちを見ながら農民が「肉汁に米の飯を混ぜて食べる世の中」を作るためにパルチザンになる。そして彼らは現実闘争で敗北して歴史の裏へ消えたかのように見えた。いやまさに廉・サンジン塩商陣のような「理想主義者」らが建設した国家がある。まさに「朝鮮民主主義人民共和国」だ。金日成も言った、「米が共産主義だ」と。ところが、死んだ廉・サンジンや金日成が蘇っても理解できない歴史のアイロニーは彼らによってでなく、彼らから見れば「親日派」将校に過ぎなかった朴正煕大統領が彼らが夢見た「肉汁に米の飯を混ぜて食べる地上の楽園」を建設したという歴史的事実だ。
「太白山脈」の廉・サンジンと金日成のを叶えた朴正煕
大韓民国は「現実闘争」で勝利した。春窮期になれば餓死者が続出した世界最貧困国だった大韓民国が今は世界12位水準の経済大国になった。いや大層な数字を羅列する必要もない。食べられないためでなく、食べ過ぎて問題になっている国が現在の大韓民国だ。
だが、問題がある。現実がこうであるにも拘らず、彼らの粘り強い「歴史闘争」の結果、あたかも大韓民国は「生まれてはいけなかった国」とさげすむ見解が幽霊になってわれわれの周辺を徘徊しているのだ。
この前ある年配の読者から「若者たちの頭脳と心臓を取り戻すためにどういう運動をすべきかを話して欲しい」という質問を受けた。それで「あまり難しく考えないで孫たちに早速‘来韓国’を購読させてあげること自体がそういう運動です」と答えたら、「既にそうしている」とおっしゃった。
そして「大学生の孫と口論してお互いが薦める本を一冊ずつ読んでからその本に対して討論することに合意した」とのことだった。「孫は‘太白山脈’を選択したが、私はどういう本を選択すればいいか分からない」という話だった。
筆者(私)はポール・ジョンソンの「モダン・タイムズ」を薦めた。韓国史の本を薦めたかったが、あまり難解か、過度に学術的な場合、あるいは立場が不明な場合が大部分だったからだ。ポール・ジョンソンは現代(Modern)の概念を「相対主義」が支配する時代と規定している。そしてこのような「文化的・道徳的相対主義」が「全体主義的ユートピア主義」に基づいた「社会工学(social engineering)」を生んだということだ。
このような社会工学がまさにナチズムと共産主義であり、こういうユートピア主義がどれほど大きな害悪を人類に及ぼしたかに対してリアルに描写している。
大韓民建設された沢東とチェ・ゲバラの実験場
また、著者が「バンドン世代」(Bandung Generation)と指摘した件は注意して読む必要がある。私たちはいまだにいわゆる「第3世界的思考」から脱皮できずにいる場合が多い。いわゆる第3世界のすべての問題を帝国主義のせいでしてしまう、あまりにも単純で便利に自己合理化する思考方式に陥っていた。
そして、こういう運動の指導者らに歓呼を送ったりした。韓国左派の代表イデオロギーグの李泳禧は毛沢東の文化大革命を絶賛した。(李泳禧の文化大革命称賛を今の中国人に言わせると何というだろうか?) そして今もチェ・ゲバラの写真のTシャツを着てソウルの江南の街を闊歩する若者たちがいる。退屈な(?)現実と決別してスリル(?)あふれるゲリラ闘争を展開したゲバラが素晴らしく見えるかも知れない。
だが、中南米で二番目に高い暮らしをした(一番はアルゼンチン)キューバは、今はの中南米で最も貧しい国の一つに転落した。このような社会工学的実験で「モルモット」に転落した「生きている人々」の運命は誰が責任を負うのか? 繰り返し言うが廉・サンジン、チェ・ゲバラ、毛沢東が夢見た(いや掲げた)理想社会は彼らの「実験場」でなく大韓民国で建設された。
それなのに、廉・サンジンやチェ・ゲバラの幽霊と歴史闘争を展開せねばならないとは…。何れにせよ、ポール・ジョンソンの「モダン・タイムズ」の一読を薦める。特に夏休みをむかえた学生たちに薦めて欲しい。幸いに翻訳本も出ている。
*黄晟準のBOOK & WORLD記事の出処は週刊「未来韓国」(www.futurekorea.co.kr)です。

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