菜食主義者

ハン・ガン著 きむ ふな訳
日付: 2011年07月12日 22時56分

 「菜食主義者」「蒙古斑」「木の花火」の3編の独立した中篇小説からなっている長編小説である。3編を通して語られるのは、主人公ヨンへとその家族たちの物語だ。
 「菜食主義者」はヨンへの夫を語り部に、突然菜食主義者となった妻と力ずくでも肉を食べさせようとするその家族たちを描く。結婚し、一家の主婦となっている大人の娘に肉を食べないからといって暴力をふるう父親、自らの力では妻をいかんともしがたく、冷蔵庫に保管していた高価な肉を処分してしまったと妻の親に泣きつく夫。
 「蒙古斑」はヨンへの姉の夫、つまり義兄にあたる、創作に行き詰まった映像作家が、妻から妹の体に残る蒙古斑の話を聞いたことから始まる、悲劇への序曲。
 「木の花火」は、“木になってしまった"妹ヨンへと、見守る姉の追想と後悔。
 このように記述すると、ありふれた家族小説のようだが、ハン・ガンが描き出す世界は平凡ではない。主人公たちの心の奥底に潜む深い孤独と、やりきれないほどの心の傷とが読み手の心に息苦しいほど迫ってくる。
 クオン刊  定価=2200円(税別)


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