エッセイストとして知られる韓国在住、戸田郁子氏のライフワークの集大成とも言える一冊。戸田氏が、勤務していた会社を辞めて渡韓し、延世大学韓国語学堂に留学したのが1983年。2年後、高麗大学史学科で韓国近代史を学ぶ。その後、中国黒龍江省ハルビンに語学留学。延辺朝鮮族自治州を中心に、中国東北地方の朝鮮族の移住と定着の歴史を取材。
この取材中に出会ったさまざまな人たちとの交流と中国における朝鮮族の変遷を、時を追ってまとめたものが本書であるが、その交流は“心温まる"などと言えるような生やさしいものだけではない。
朝鮮や旧満洲国で行った日本帝国の横暴、それを日本人として聞かなければならなかった戸田氏。時が流れたとはいえ、自らの祖国が犯した過ちを、被害を受けた側の人びとの口から語られるのをまともに聞くことがつらくないわけはない。だが、戸田郁子のすごさは、そのつらさを乗り越えどこまでも、真実を突き詰めていく姿勢にある。その姿勢が戸田氏に次々と素晴らしい人々との出会いをもたらしてくれる。
岩波書店刊 定価=2500円(税別)