韓国で大学授業料の半減化を求める学生のキャンドルデモが続いている。街頭でキャンドルに火をともし、学費引き下げに言及した与党ハンナラ党に「約束履行」を求めているのだ。
不思議なことに、今回のデモには学生以外の参加者の姿も見える。野党が主催者に加わることもあった。学費値下げの要求が、いつの間にか「ハンナラ党打倒」、「李明博大統領辞任」にすりかわっているのだ。
3年前に見た光景
08年5月、韓国全土でキャンドルデモが起きた。BSE(牛海綿状脳症)感染牛の肉が混入する危険があるとして輸入停止になっていた米国産牛肉の輸入再開に反対するデモだった。
確かにBSEに感染した牛肉を食べた人はクロイツフェルト・ヤコブ病という疾患を引き起こす可能性があると指摘されている。しかし当時はメディアの歪曲報道もあり、「米国産牛肉を食べるとBSEに感染する」と信じる人が異常に多かった。その不安心理につけ入り、デモを煽ったのが、全国民主労働組合総連盟(民主労総)や韓国大学総学生会連合(韓総連)、全国教職員労働組合(全教組)などの親北団体だった。彼らの要求は「李政権打倒」だった。
当時のデモは、問題に火をつけた報道が虚偽だということが明らかになったことなどから徐々に下火になった。それでも数カ月にわたって不法な街頭デモが続いたのは事実だ。
今回のデモは要求が学費半減であることから、3年前ほどの規模にはなっていないという。しかし、デモは数千人規模に発展し、過激な行動が目立ち始めている。デモを主導している韓大連(21世紀韓国大学生連合)は大法院(韓国の最高裁判所)により利敵団体と規定された韓総連を継承した学生運動団体で、集会で掲げられているプラカードに書かれた「狂った学費、狂った政権」という言葉は、北韓の対南窓口機関「祖国平和統一委員会」が使っている言葉と一致することは、すでに小紙が報じたところである。
デモはなぜ起きた?
ではなぜ親北・反政府団体はデモの続行と現政権批判に力を入れているのか。それはひとえに、来年4月に迫った韓国総選挙と、同年末に行われる大統領選挙を睨んでのことと見るべきだろう。さらに言及するならば、親北左派政権への政権交代を望む北の対南工作の一環と見るべきだ。
それに対し、李明博政権は戦う姿勢に欠けているとしか見えない対応をとっている。ハンナラ党の体たらくも嘆かわしい。問題は自らが所属する政党の勝ち負けだけに帰結しない。韓国の国家体制の根幹への挑戦なのだ。北の国家転覆工作に対して、政府だけでなく国民レベルで対応すべきなのに、リーダー自らが座視を決め込んでいるのだから情けないことこの上ない。
江原大学の閔庚菊教授は、授業料を政府が補助して引き下げるのは、競争の鈍化につながり、大学の教育レベルを低下させると警告している。また、授業料は政府でなく教育市場が決めるべきであり、政府がやるべきことは、大学間の競争が活発になるよう競争秩序を確立することだとも指摘している。閔教授は、誰でも望めば大学教育を受ける権利があり、国家がその権利を履行する義務を持つとすれば、それは韓国の憲法精神とは異なる社会主義への移行を意味するとも述べている。
在外国民として
政争の色を濃くするキャンドルデモに対し、在外韓国人も無関心ではいられない。周知のとおり、来年には在外国民に国政投票権が与えられるからだ。すでに日本国内でも水面下で政党主導の選挙戦が始まっているといわれる。ここでも意欲的なのは親北・従北勢力だ。自由統一を志向する在日韓国人にとっては、対岸の火事どころではなく、自分の足元にも火がつき始めているといえる。
選挙でどの政党、どの候補に投票するかは個々人の判断による。判断を誤らないためにも、本国の政治に今まで以上の関心を寄せるべきではなかろうか。