金正日が5月25日、中国側からの招きで訪中し、胡錦濤国家主席と会談した。その席で金正日は、6カ国協議再開や南北関係の改善に意欲を示したと報じられた。またか、といったところだが、意外にも韓国側は南北対話に乗り気だ。
李明博大統領はすでに、来年3月の核安保保障サミットに金正日を招待。北韓の祖国平和統一委員会は激しく非難したが、「否定的に出てきたからといって否定的に見る必要はない」と、待つ姿勢を鮮明にしている。一部の韓国メディアは、6カ国協議再開を前に、南北対話や米朝協議を経る3段階案を提示している。
南北対話に対する李大統領のスタンスは、一貫しているとはいいがたい。昨年起きた天安艦爆沈事件や延坪島砲撃の謝罪を、北韓は先にすべきとしていたのに、先般の発言である。仮に謝罪があったとして、即対話に応じるというのも考え物だ。謝罪によって北はようやく対話再開のスタートラインに立てるだけであって、韓国としては対話に応じるだけの“手土産"にはならないだろう。
ハンナラ党内の「少壮派」
李大統領の足元も不安定だ。与党ハンナラ党内には若手議員を中心とする「少壮派」と呼ばれるグループがいる。党を二分する李明博派、朴槿惠派のどちらにも属さない、第3の勢力といっていい。彼らは南北関係の膠着を、「李明博大統領の強硬策のせいだ」といってはばからない。党内のベテラン議員からは「北の術中にはまるだけだ」とたしなめる声が出ているものの、彼らの耳には届いていない。
南北首脳会談の“劇場化"
李政権を含めて過去3代の韓国の政権は、窮地になるたびに「南北首脳会談」というカードを切ってきた。2000年の金大中しかり、06年の盧武鉉しかりである。閉塞感を打開し、落ち込んだ支持率を回復するという目的が大きかった。
結局、南北首脳会談は、韓半島の平和や統一を導くどころか、危機を高め、問題解決への道のりを険しくさせてしまったのだ。そして会談は、互いの住民向けのパフォーマンスを演じる舞台になってしまった。
金正日の焦り?
金正日は4月末のカーター元米大統領訪朝時、カーター元大統領に南北首脳会談開催の仲介を依頼したという。これは一見、北側が南北会談を焦っているように受け取れる。核放棄と韓半島の平和についても、今回の胡錦濤との会談で、今まで米朝対話の枠組みで話し合うとしてきた姿勢を軟化させ、6カ国協議での話し合いを受け入れたと理解できなくはない。
経済状況の悪化に歯止めがかからない北韓としては、なりふり構わず対話と支援を取り付けようとしていると思いがちだが、はたしてそうだろうか。
北韓は今まで、6カ国協議の場に出てきながら、肝心なことははぐらかしたまま、結局米朝対話で決めるとしてきた前例がある。今回も、なかなか釣れない米国を、協議復帰というエサで引き寄せ、何らかの譲歩や支援を引き出そうという意図があると見ることはできないか。
国内に目を向けよ
李明博大統領には、功を焦って南北会談をする以前に、韓国内に解決すべき問題が山積している。例えば韓国の正統性の確立、国防力の強化、若者の雇用対策などだ。
韓国は96年にOECD(経済協力開発機構)に加盟し、支援を受ける国から与える国に変わった。その経済力と、国際社会における存在感と責任は、今や無視できないほどだ。
ところが内部では格差が広がり、青年の失業率は高止まりのままだ。北韓のかく乱作戦に惑わされず、原則を貫きながら、国内の問題に手をつけるべきだ。南北首脳会談は、北韓からの真摯な謝罪と、核放棄という約束を取り付けるまで応じるべきではない。どっしりと構える重さが、韓国には必要だ。