炉を鉛で覆う準備進めよ

どうなる原発 化学技術者 元大学非常勤講師 西沢 茂郎
日付: 2011年03月24日 00時00分

西澤茂郎氏
 福島第1原発は、すでにチェルノブイリと同じ状況にあると見ていい。燃料のウラン濃度では原爆のような核爆発が起きることはないし、建屋が吹き飛んだため水素ガスの溜まる場所がなくなり、水素爆発もないだろう。
 しかし、炉内や使用済み燃料プールにある燃料棒が化学反応を起こしている。燃料棒は燃料であるウラン酸化物をジルコニウム合金で覆っているのだが、そのジルコニアが水を分解して水素が発生している。水素はすべての炉から出ている可能性がある。
 放射性物質(放射能)が、もれ出た水素にともなって拡散する。原子炉から上がった白煙は、水素が燃えてできた水蒸気と見ていい。水素や水蒸気とともに放射能は大気中に拡散する。放水した海水も、放射能を帯びて土壌や海洋を汚染する。
 現在、使用済み燃料棒プールには外部からの放水が、原子炉では冷却システムの復旧が行われている。だが冷却システムの復旧は困難だろう。一部で電源はつながったとはいえ、私は悲観的に見ている。海水をかけたため、塩素で機器に相当なダメージがあったはずだからだ。
 ジルコニウム合金が破損していると思われる現段階で、放射性物質の漏出を完全に防ぐことはできない。核燃料(ウラン)の露出がどの程度進んでしまっているのか、情報が隠ぺいされているため実態はわからない。
 対処法としては、コンクリートで炉を埋め、その上から鉛で覆う準備をすることを提案する。コンクリートだけでは放射線漏れは止められない。それでもその上から溶融した鉛を塗り固めれば放射線は遮断できる。
 ただし、それでは放射性物質にフタをしたにすぎない。放射能は設備の横や下から土壌や地下水を通じて外部に漏れだすだろう。その対策もとらなければならない。コンクリートで埋める準備を始めるべきだ。
 放射線は人体に影響を与える。中でも怖いのは遺伝子への影響だ。テレビに出てくる専門家は「何マイクロシーベルトまでは安全」といっているが、すでに自然界ではありえない量の放射線が出ている。逆に瞬時であれば、数値以上の放射線を浴びても問題ない可能性はあるが、安全基準を数字に頼りすぎてはいけない。放射線の数値だけでは、どれほどの被害が出るかはわからない。
 私は、化学工場で働いた経験もあり、爆発事故にも遇った。化学工場の爆発では、爆発原因物の量は有限で、それが無くなれば事故は収束する。爆発原因物の供給を断ち、爆発生成物の除害に努め、2次被害を食い止める。例えば、石油タンクの火災では、直接の消火よりも、タンクが空になるまで類焼など2次被害を防ぐことに注力する。法規制も事故はあるという前提なのだ。しかし、原発では事故はないという前提のようだ。
 原子炉においては事故原因物である核燃料は無くならない。燃料棒中の核燃料は全部使われるわけでなく、いわゆる使用済み燃料棒中には大量の核燃料が残される。福島第1原発の使用済み燃料棒も危険な状態にある。化学爆発とは違い、原発は放射能発生の原因物をどんどん増やし、放射能を撒き散らす。まさに悪魔の技術だ。
 事故への対応も化学工場と原発では違う。政府と東電は「安全だ」の一点張りで、周辺20キロから30キロ圏内の住民はいまだに屋内退避の状態だ。そこから退避させるマニュアルなどなかったのではないか。
 スイスでは日本の原発事故を受け、国内の原発廃止を望む人が87%に達した。2年前の調査では73%が賛成派だったにもかかわらずだ。今こそ脱原発を宣言してエネルギー・環境政策の根幹に据え、日本が先頭に立って世界の潮流にするよう声を上げるべきだ。


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