趙甲済
朝鮮日報の崔普植記者が最近ハンナラ党の李在五前議員(*右写真)をインタビューした内容に、こういう件があった。
<‐私が聞いたところでは、2004年の総選挙が終わった後智異山で開かれたハンナラ党の研鑽会で李前議員が「維新時期に『令嬢・朴槿恵放生記念塔』を蹴った」という過去の逸話で座中を笑わせると、その場にいた朴槿恵前代表が腹立って外に出たと聞いたが。
「足で蹴ったというのは正確でなく、ところでこういう話をしなければならないのか…. 当時『過去事問題』で社会が騒々しかった時だった。研鑽会で、汝矣島研究所が『親日は時代的な不可避性があり、5.16クーデター(軍事革命)は反憲法的発想でなく時代的状況がそうだった』というふうに基調報告をした。私が興奮して演壇に立った。『親日行為が避けられなかったとすれば命を捧げて独立運動をした方々はどう説明するか。5.16は、明確に憲政を蹂躙したクーデターだ。それはそれなり認め、その後の治績を認めるべきであって、クーデターを合法化してはならない』と言った。
その後、1979年、私が国際アムネスティ韓国支部の事務局長を引き受けて、慶北の安東ダムを訪問した話をしたのだ。ダムの入口に、スッポンとフナ、鯉などを放生したのを記念する『令嬢・朴槿恵放生記念塔』は大きく建てられて、ダム建設工事中事故で亡くなった労働者29人の慰霊塔は茂みの中にみすぼらしくあった。これを維新独裁の実体と非難して、次の日に中央情報部に連行されて拷問を受けて拘束されたことを…。」
‐仮にそうだとしても、成熟した政治家なら時と場所によって言うべき言葉と言えない言葉を選ばなければならないのではないか?
「それは見解が違う。私は発表内容が間違ったことを指摘したのだ。そもそも汝矣島研究所がそういう発表をすべきでなかった。過去苦しめられた人もいるということを考慮すべきだった。私たちが監獄に入ったのが遊びだったのか。もちろん、その時の感情がまだ残っているのではない。軍事政権が終わると「民主化運動」も終わったのだ。」
‐若い時に入力された理念や思想は生涯に影響を及ぼすものだが。
「この頃の左派理念とは関係のない民主主義への熱情だった。(大学から)除籍され軍に行ってきたが復校させてくれなかった。その時『個人の幸福や価値観が政治的条件によって折れることがあり得るな』と考え、反独裁闘争に身を置くことになった(彼は5回拘束され10年近い収監生活をした)。」>
李在五前議員は、1980~90年代に左派団体である「民統連」と「全民連」の祖国統一委員長を務めた、「在野の統一問題専門家」だった。全民連の祖国統一委員長だった1989年に、第1回汎民族大会を推進して国家保安法違反嫌疑で拘束された。
その後1990年、白基玩、李佑宰、張琪杓氏などと一緒に「解放以後最初の自生的、自主的、進歩政党」という旗じるしを掲げて民衆党を創党(*左写真)し事務総長を務めた。民衆党が選挙で失敗し北韓スパイ(*李善実、金洛中など)線が侵透していた事実が知らされた後、彼は馬を乗り換える。15代総選挙の直前の1996年1月、金泳三元大統領の勧誘でハンナラ党の前身の「新韓国党」に入党し、入党90日後ソウルの恩平乙区で当選、既成政界に入った。
彼が2000年4月の総選挙で再選して事務1副総長の時、朝鮮日報政治部の金徳翰記者が統一問題と関連して長いインタビューをした。金大中-金正日会談の直後で、いわゆる統一議論が活発な時だった。このインタビュー記事は、月刊朝鮮2000年10月号に載った。私は、李議員の理念性向に対する論争がインターネットで行われていたので、この記事をもう一度読んで見た。
李在五議員はこのインタビューで、「低い段階の統一論」という馴染みの薄い単語を使い、南・北韓の統一政策を両非論の立場で批判する。彼は「統一事業」という言葉も使った。
「南・北の和解と協力に誰が反対するでしょうか。そういう面で、ハンナラ党が少しも保守的であるとか統一事業から手を引いたり統一事業自体を批判すると思いません。わが党が政権を取ると、北韓と統一事業をしなければならないのに、今北韓を根拠なしで誹謗する理由がありますか。」
「北韓と統一事業をする」という話は論理的に合わず用語そのものが馴染めない。「統一事業」という言葉は韓国人がほとんど使わない。わが憲法は、北韓と統一事業をせよと規定した件がない。憲法は、北韓を自由民主主義体制で吸収統一しろと命令している。「北韓と」と「北韓を」は違う。金正日政権は統一のパートナーでなく統一の対象だ。
彼は、北韓政権の性格に対して質問されて、こう答えた。
「もちろん、実体は認めなければならないでしょう。しかし、北韓政権は合目的的社会主義でなく金日成憲法に立脚した社会主義政権であるため、決して社会主義を放棄しないはずで、出来るなる社会主義方式で統一しようとするはずです。金日成憲法を追従する金正日政権の実体を認め、この基盤の上で対話をすべきで、これに対して純真な考えをしてはなりません。」
李議員は大きな誤解を犯している。その誤解があまり大きいため、故意にそう言ったのではないかを思われるくらいだ。北韓政権は労働党規約と金日成教示に立脚した「首領独裁」体制だ。韓国のように憲法に立脚した社会主義政権でない。韓国の憲法は最高規範だが、「北韓憲法」は教示や規約の下にある。李議員は、北韓政権が恰も立憲社会主義であるかのように美化し、その体制を認めなければならないと主張する。
李在五議員(当時)が主張した統一方案は本当に衝撃的だ。
「1民族1国家1体制の統一は難しいではないかと思います。そうでない統一が統一かというかも知れませんが、1民族1国家2体制などの「体制連合」程度は可能ではないかと思います。われわれが自由民主主義を放棄するのは不可能で、同様に北韓が金日成憲法を放棄しないはずだから、その折衝点は、民族の同質性と民主主義、この二つの定規で新しい体制の誕生が可能ではないかと思います。民族の同質性と民主主義、この二つの核心懸案を置いて譲歩と理解が必要です。」
李議員は、ここで明確に反憲法的な統一論、しかも北韓政権の連邦制(赤化)統一案と同じ統一論を主張する。「1民族1国家2体制」を連合と呼ぼうが連邦と呼ぼうが、それは統一でない。民族は同じでも体制(理念)が異なるため分断されたのに、この敵対する二つの体制をそのまま置いて統一国家を作るというのが北韓政権の連邦制案であり、これは赤化統一に行くためのトリックだ。連邦制を主張して統一の雰囲気を拡散させた後、国家保安法を無くし、駐韓米軍を撤収させる腹案を抱えているのが連邦制だ。
李議員は、大韓民国憲法が命令した、1民族1国家1体制の統一方案でなく北韓式の統一方案を言っているわけだ。李議員が主張した「1民族1国家2体制などの体制連合」が、韓国の統一方案でなく北韓式統一方案であるという事実は、続く彼の説明で確認される。
<‐在野統一運動家の時と今の統一論はどういう面で変化しましたか?
「変わったと言うより、その時は軍事政権の統一論の利用に反対したわけで、そのうちに国家保安法違反で監獄にも入るようになったのです。私は在野の時からずっと、南北相互間の反統一的な法的・制度的装置の廃止→南・北韓が共同で使用できる板門店の平和村への開発→相互交流→南・北韓連合議会構成→国家連合(1民族1国家2体制)の5段階統一論を主張してきました。在野の時は北韓体制を認めること自体が国家保安法違反でしたが、今は北の体制を認定する程度は進歩的なことでないことになってしまったではありませんか。私は今度の南北首脳会談がちょっと早かったと思います。南・北韓間の法的・制度的な反統一的要素が多いのに、それをまず無くし、統一議会が構成される段階に達して頂上たちが会って決着をつけるべきで、先に会って結論を出して、それに合わせようとするから国民的合意ができず問題が解決されず難しくなるのです。」>
<南・北韓連合議会の構成→国家連合(1民族1国家2体制)>という統一方案は、大韓民国憲法が絶対に許容できない。南北韓の国会が連合体を作るという発想自体がぞっとするほど反憲法的-反国家的だ。大韓民国の国会は公正な選挙によって構成される。北韓の国会議員に該当する最高人民会議の代議員は単一候補への賛否投票で選ばれる。ほぼ100%賛成で当選する北韓政権のカカシらだ。こうした者らと手を握って連合議会を作るという発想そのものが反逆的=反憲法的だ。北韓が自由選挙を通じて代議員を選ぶならこのような連合体を検討できる。国民主権の選択である韓国の国会議員たちと、首領のカカシである代議員らを同格と見る人は絶対に健全な韓国人であるはずがない。
李議員は、南北韓の連合議会を構成した後、「国家連合」を作ると言った。盧泰愚大統領の時作った「韓民族共同体統一方案」に出るのは「南北連合」であって「国家連合」でない。「南北連合」は問題の多い概念だが、少なくとも北韓を国家と認めないわが憲法に違反する言葉ではない。李議員が主張した「国家連合」は、二つの国家間の連合でなく一国の下に二つの体制(地方政府)を置くという点で「国家連合」でなく連邦制だ。李議員はどういうわけからか、北韓式連邦制案を「国家連合」と偽装している。「6.15宣言」の以前は連邦制を主張すれば国家保安法違反で監獄に入れられた。
李議員は、続いて相互主義の原則によって国家保安法を廃止せねばならないと主張した。
「廃止でなく改正すべきだと思います。政権が統治手段として悪用できる条項は廃止すべきだということです。しかし、枠組み自体は統一の最後の段階で南北の相互主義で無くさねばなりません。北韓にも北韓刑法、金日成憲法など到底そのまま置いては統一できない条項が多いが、それを今私たちが無くせと言うと北韓側が受け入れますか。矛盾点は指摘するものの、南北関係の進捗状況を見ながら修正、改正、補完すべきで、いっぺんに無くした後状況が変わったらどうするつもりですか。」
李氏は、ここでもぞっとする主張をする。北韓の刑法や憲法の問題条項と、国家保安法を交換できるという式だ。北韓の刑法と憲法は紙切れに過ぎない。「労働党規約」や「金日成の教示」が重要であって、法が力を持つ所でない。国家保安法は憲法に基づいた正当な法律だ。南・北韓の左翼が大韓民国を相手に総攻勢をかけている今はもっと強化せねばならない法律だ。盧泰愚政府の時国家保安法が改正され、その後この法が悪用された事例はない。
にも拘らず、自由と安保の命綱である保安法を、北韓の紙屑のような刑法と交換して無くすという李氏の発想は、ゴミと黄金を一緒になくそうという主張と同じだ。北韓政権に対してよく知っているはずの彼が、なぜ労働党規約と金日成教示を一度も触れないのかそれが本当に知りたい。労働党と金日成の権威を傷つけないための配慮か? 労働党と金日成と金正日を批判しない表皮的な北韓批判は、韓国体制を本格的に批判するためのフェイントモーションである場合が多い。
李在五議員の反憲法的でかつ親北的な対北観の決定版は、憲法の領土条項に対する彼の見解だ。
< ‐大韓民国憲法3条の領土条項も反統一的という指摘がありますが。
「象徴的な条項ですが、これを間違って理解しますと、この条項がある限り北韓との統一は不可能だと主張できます。北韓をわれわれが吸収せねばならないから、北韓の金日成憲法がある限り北韓がわれわれを吸収せねばならないように互いに吸収せねばならないという論理が成立します。この条項は適切に調節する必要があると思います。
これに固執したら、北韓にも要求するのが不可能になりますから。北韓と適切な協議を経て『われわれも君たちの体制を憲法的に認めるから、お前らも直せ』とやるべきでしょうね。例えば、金日成憲法で私的所有を認めない条項などを撤廃しろと要求することもできます。北韓憲法の1条もわが憲法3条と似ています。」>
李氏は、ここでも国民の主権的意志が盛込まれた大韓民国憲法と、北韓政権のアクセサリーに過ぎない北の憲法を同格に置く。これは大韓民国と民主主義、そして法治主義に対する冒涜だ。ここでも李氏は、あえて労働党規約と金日成教示に触れない。労働党と金日成に対する本質的批判を避けようとする姿勢に見える。
大韓民国憲法の心臓と脳髄は第1、3、4条だ。第1条は、大韓民国は民主共和国であると宣言し、第3条はその大韓民国の領土は北韓地域まで含む韓半島全体と規定して、北韓地域を民主共和国化すべき義務を国民と国家に付与した。憲法4条は従って、北韓地域を民主共和国にする統一方案として「平和的方法による自由統一」と釘を刺した。1、3、4条はこのように有機的に連結されているため、どちらの一つの条項も手をつけることはできない。国体変更をもたらすためだ。
ところが、李氏は憲法第3条を「象徴的なもの」と格下げする。憲法第3条を改正すれば韓国は北韓を自由統一できる法的根拠を失う。中国が北韓地域を占領する場合、韓国は憲法第3条によって、「大韓民国の領土を占領した行為」と規定して対応できるが、第3条が消えれば外国が外国を占領した行為に留まるようになる。第3条は、統一への国家意志を盛込んだ大韓民国憲法の脳髄だ。この3条を北韓との協商の対象にするという姿勢は、独島を協商対象にするということよりはるかに悪質の、ほぼ売国レベルの話だ。「われわれも君たちの体制を憲法的と認めるから、お前らも直せ」という話も憲法違反だ。北韓体制の憲法的認定は、韓国の憲法体制の下では不可能だ。北韓体制の正当性と正統性を認めてあげる瞬間、大韓民国だけが韓半島の唯一の合法-正統国家という優越性が飛んでしまう。李議員は、大韓民国を頻りに反国家団体である北韓政権の水準に下げようとした。
李議員の言葉通り、大韓民国憲法の領土条項と北韓憲法の私有財産禁止条項などを同時に無くすとしよう。それでも残るのは北の「憲法」の上に存在する「朝鮮労働党規約」の「韓半島全体の共産化」条項だ。彼(李在五)は、北韓政権に一方的に有利な主張をしたのだ。
李在五議員の統一観と対北観を要約するとこうなる。
1.国家連合という言葉で包装はしたものの、彼の統一方案は事実上北韓政権の連邦制かその亜流だ。これは公人がやれる最も大きな憲法違反行為だ。
2.彼は大韓民国憲法第1、3、4条が規定した国家理念と正統性と統一意志を正面から否認している。
3.彼は韓半島の唯一の合法-正統国家である大韓民国と反国家団体の北韓政権を同格に置こうとする。
4.彼は自由選挙で構成された韓国の国会と首領独裁の装飾物の北韓の最高人民会議を同格視する。
5.彼は韓国の最高規範である憲法と、北韓の労働党規約の下位概念である「憲法」を同格視する。国体変更を齎すれべるの改憲を支持しながら、労働党規約と金日成教示の修正や廃棄は要求もしない。
6.北韓政権に対しては枝葉的な批判をするだけ、労働党と金日成-金正日に対する本質的な批判をしない。反面、韓国の権威主義政権に対しては苛酷に批判する。彼は、保守団体の集会にきても「朴正煕独裁」という表現を使った。
7.大韓民国憲法の基本的価値である自由と民主と市場経済に対する確信が見られない。
8.彼の統一観は、従北政党である民主労働党に似ており、大韓民国憲法とは全面的に背馳する。
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<参考:朝鮮労働党規約前文(一部)>
朝鮮労働党の当面目的は、共和国の北半部で社会主義の完全な勝利を成遂げ、全国的範囲で民族解放と人民民主主義革命課題を成遂げるところにあり、最終目的は全社会の主体思想化と共産主義社会を建設するところにある。