張真晟(脱北詩人、「私の娘を100ウォンで売ります」の著者)
北韓の新年共同社説を見ると金正日政権の一年が見える。それほど北韓で新年共同社説の持つ意味や役割は非常に大きいと言える。さらに金日成が死ぬまでは一年中ただ一回だけ住民たちに聞かせた声だったので、神格化と関連して絶対的な意味を持つ。
それで、金正日政権は、金日成主席死後も彼の声の新年共同社説は続くという意味で、「労働新聞」・「朝鮮人民軍」・「青年同盟」の共同社説という包括的形式を取った。実際に北韓で共同社説は、金日成と金正日の教示と同様に個人から社会にまで1年間の指針書として神聖視される。
過去、北韓住民は、党生活を総括する時、金日成と金正日の教示を先に引用しそこに基づいて自分の生活を反省したが、金日成死後は共同社説に代替された。また、新年共同社説に明示された社会各分野の評価や課題は、そのまま該当分野の一年間の総目標でもある。
このように共同社説は理念国家である北韓では一年間の理念だ。こういう理由で、北韓は公開される文書であるにもかかわらず、共同社説だけは率直にならざるを得ない。それでは「共同社説」は、誰が、どのように、何を根拠に書き、その最終決定者は誰なのか?
共同社説の執筆主体は「労働新聞」の正論部署だ。「朝鮮人民軍」と「青年同盟」は、単に名義を提供するだけで、彼らは何の権限も実務もできない。労働新聞の正論家になるためには、金正日と同じ眼目のある北韓最高の筆陣にならねばならない。彼らは12月中旬になると自動的に「共同社説」執筆チームの地位が与えられる。
その時から彼らは出退勤でなく中央党宣伝煽動部傘下の江西招待所で保安合宿に入る。そこで完成された原稿は、党宣伝扇動部を経由して金正日の最終サインを得るようになり、そうした後、元日の北韓の全新聞社に配布されるのだ。
北韓の共同社説を見れば分かるはずだが、昨年の成果や新年の課題と言いながら数字化された科学的根拠は全くない。経済成果というのも「自力更正」、「江界精神」などの抽象的なスローガンばかりがあるだけだ。これは北韓の毎年目標が、理念国家のアイデンティティから離れて、ただ金正日体制維持にだけ焦点が合わせられ、経済管理が計画的に体系化する水準でないという反証でもある。
共同社説執筆の根拠資料は、金正日の別途指針や、金正日に承認された党組織部の党課題、党経済部の経済成果資料ら、党国際部の対外文書、党統一戦線部が作成した対南分野の資料などだ。その資料らを根拠に執筆チームは共同社説を構成し論理を展開する。
共同社説は、題名と冒頭、昨年の評価、今年の課題の3段階に分けられる。共同社説で始終一貫して貫くべき内容は、金正日が別途に出した指針書らだ。これらは金正日神格化次元で冒頭に言及される。まず、題名は金正日の新年の意中と見なければならない。
北韓の今回の共同社説の題名は、「今年もう一度軽工業に拍車を加えて人民生活向上と強盛大国建設において決定的転換を起こそう!」だ。これは金正日が今年最も望むものが何かを直観的に示す。その次は国家行事をどの記念日に合わせ、それを通じて住民たちに注入しようとする情緒がいったい何かということだ。
北韓は去年の記念日行事を、党創建65周年に合わせ党代表者会も行った。市場の拡大で党の権威が失墜したため住民情緒を党への忠誠に誘引する一方、金正恩3代世襲を公言するためだった。北韓の今年の共同社説では記念日の国家行事指定がない。代わりに来年の金日成誕生日100周年記念のため、今年を準備の年と宣言した。
これは今年の「国家情緒」を金父子神格化に焦点を合わせ、3代世襲構図をもっと固めるための意図だと解釈される。つまり、金日成誕生100周年を契機に金正恩にもう少し明示的な権力を譲る前に、対内情勢を安定させようとする緩衝期にしたわけだ。
一部では今年の「2.16(金正日の誕生日)」に金正恩に最高司令官の肩書を譲るというが、そういうことはない気がする。そうするためには、最高司令官推戴に似合う狂信的先軍の雰囲気造成を図るはずだが、そういう雰囲気が全く無い。むしろ、3代世襲への悪材料である経済難回復のために人民経済の部分に多くの紙面を充てた。
「今年の総攻撃戦は、大層な人民生活向上大進軍の続きであり新しい高い段階だ」と言い、「軽工業は今年総攻撃戦の主攻戦線」とまで言った。それだけでなく、「今日軽工業に対する立場は、人民に対する態度、党を仰ぐ姿勢、革命に対する観点と直結した重大な問題だ」という文句で、金正日政権の苛立つ経済不安心理を表わいていた。
しかし、改革・開放、市場政策のような大きな枠組みの変化はなく「地方工業発展」、「1次消費品」のような旧態依然な言葉らや「金鉄の信念」(*金鉄は金策製鉄連合企業所のこと)という自力更生の労働精神をその解決方途として出した。人民経済部門に続き、北韓特有の反復性、呼び掛け性、具体性の文法を通じて特別に強調したのは、党の指導強化と先軍部門だ。
その中でも特に今年の北の先軍部門は、「訓練」と「中隊」を強調した非常に具体性を示した。延坪島砲撃後の韓国政府の対応意志を意識したのか「今日の訓練は明日の戦闘英雄を育てる溶鉱炉だ」という文章で戦争準備の万全を強調し、基本戦闘単位である中隊の強化を力説した。
北は、「我々の空と地、海を少しでも侵犯する者らを秋毫も容赦せず、無敵の銃で祖国と民族への歴史的使命を必ず遂行する」と前提してから、対南部門で「対話」という単語を使用した。ところが、韓国の言論や一部の「北韓学」学者たちは、その「対話」という単語のみを重視し、その前提条件として闡明した、「6.15共同宣言と10.4宣言を尊重し履行する道に出てこなければならない」という文句は解釈しようとしなかった。
対外部分で目を引く文句は「非核化」だ。これは、韓半島はもちろん、北韓を狙う外国の米軍基地の全ての核と交換するという、事実上の核武器完成宣言も同然だ。これで、北韓の2011年一年間の国家目標は大きく五つに圧縮できる。
一つ目は、世襲環境のための政治的緩衝期、二つ目は、経済の安定で対内的結束を誘導、三つ目は、「訓練」と「中隊」を強調した戦争準備のアップグレード、四つ目は、「6.15宣言」尊重を前提とする南北対話、五つ目は、韓半島の非核化や平和地帯の構築、金正日政権保障を条件とする「6者協議」参加だ。