しかし近年、北韓にも新たな勢力が生まれてきました。市場勢力です。
北韓住民の8割は配給ではなく市場でのやり取りで生活しています。昨年の貨幣改革は失敗しました。市場勢力は金正日に勝っています。市場勢力が拡大すれば、金正日の権力の弱体化につながります。
金正日訪中後、米国で対北情報機関に30年以上所属していた人と、北韓政府の元高官と私の3人で食事をしました。状況は変わっていますし、少数の意見ですが、私たち3人は、金正日は3男のジョンウンを同行させていないのではないかと考えました。
北の主体思想からみて、後継作業で中国の承諾を得るというのは信じがたい。経済的支援を求めるために中国に行き、中国は6カ国協議復帰を条件にある程度の支援を約束したのではないかと見ています。金日成ゆかりの地をめぐることで、自らの権威付けも目的としていたのでしょう。
北では党代表者会が開かれようとしていますが、金正日は健康不安の自分が死んだときに備え、機能を失って2、30年たつ党政治局の復活を目指していると思われます。
党代表者会が開かれていないのは政治局のメンバー約10人を決めかねているからであり、そのこと自体が金正日の権力弱体化を意味していると思われます。ジョンウンが後継とメディアが主張しはじめて2年ほど経ちますが、実は彼が党員であるかどうかも定かではないのです。
では、ポスト金正日はどうなるでしょうか。
金日成の死後、北韓専門家だけでなく、内部高官だった黄長燁氏でさえ、北韓はまもなく崩壊すると読んでいました。予想を狂わせたのは、北が金日成独裁であるという誤解でした。実は80年代初頭から、北は「金日成・金正日」の2人体制だったのです。80年代半ばからは「金正日・金日成」政権でした。ですから権力の基本構造は金日成の死後も維持できたのです。
金日成死亡時には金正日の神格化が終わっていましたが、金正日の死で神格化された偶像はなくなります。これは決定的な意味を持ちます。
共産主義の歴史で金正日と並ぶ独裁者は3人。金日成・毛沢東・スターリンです。
スターリンの死でソ連では権力争いがおき、フルシチョフが権力を握りました。フルシチョフはその後、スターリン批判を行いました。それに驚いた金日成は、自分が粛清した南朝鮮労働党の人物を解放しました。そのうちの一人が、中国経由で日本に来た朴甲東氏です。とはいえソ連は、フルシチョフ体制になってから強制収容所を解体するなど、“人間的な"共産党になりました。
毛沢東の死後、妻の江青は、文革で力を伸ばした4人組の残る3人を大規模な粛清で排除しました。その後、鄧小平の改革開放路線に入るわけです。
同様の変化が北韓でも起こるだろうと考えます。まず、住民の恐怖がだいぶ薄まります。同時に、労働党内で対立や軋轢が生まれるでしょう。この2つが一つになると、大きな混乱が予想されます。軍や党の瓦解は短期間にはないでしょうが、内部の変化が起きます。