『韓国が死んでも「一流先進国」になれない18の理由』/百瀬格・著

金両基書評=韓国は日本に追いつき、追い越した?でも「一流国」への道は遠い
日付: 2010年07月21日 00時00分

文藝春秋刊・定価1800円(税込)
 日本のテレビに韓国ドラマが絶え間なく放送されるほどの韓流ブームなのに、韓国からの観光客は日本の訪韓客をしのぎ、対日貿易の赤字は減らない。07年の輸入品の「もっとも大きなものは日本メーカーからのテレビゲーム百万台とそのゲームソフト、絵画、乗用車、そしてゴルフクラブ」、これらは「絶対買わなくてはならないものではない」という著者の指摘は的を射ている。

 デパートには自国よりも日本の食料品の方が目立ち、日本でも日常的に使われていない韓国にもある小間物が店頭に並ぶ。必要もないのに「大量の日本製品を輸入しておきながら対日貿易赤字を云々するというのは、筋が通らない」という指摘に同感。実話にもとづいた読みやすい本で、題名にはさまれた「死んでも」がアイロニカル響いてくるのは、著者の重い苦言や指摘に嫌みがなく韓国や韓国人への温もりがただよっているからである。商社マンとして四十数年日韓を往還しながら両国が理解しあうことの大切さを実感してきた重さが伝わってくる。

 「人の心が感じられた」経済的に乏しかった訪韓当初の韓国人が、豊かになった40年後の昨今では「無表情でどこかむなしさを感じ」、「金さえあれば自由も買うことができる国になってしまった」のではないかと述懐し、情や心の変容に苦言を呈する。「韓国の大企業の役員が受け取る高額の給与とボーナスは、経済大国である米国や日本でも見ることのできない」といいその過剰な給与を社会に還元するよう進言。また「自尊心も強いが他人に配慮する心を持っていたが、それを何処かに忘れてきた」のかと個別の例を引きながら「韓国的個人主義が見え隠れしている」と省察。

 苦言を連発しながら、著者が設立当初からかかわてきた浦項総合製鉄所を世界のトップ企業に成長させた韓国人の力を称え、朴正熈大統領時代のセマウル(新しい村)運動の成功例を引きそれを独自ブランドとしてアフリカなどの援助に活用せよと進言。さらに世界企業の育成には優れた技術力を持っている日本の中小企業の良さを取り入れ育成すれば一流先進国の道は遠くないと説く。わたしも同感であるが、日本の暖簾のれん文化のような世襲制が希薄な韓国社会でそれを実現できるであろうか。

 著者の進言を活かすには、絶対的権限を持っている大統領のそばに「苦言を呈し、忠告をして、大統領の目と耳を開けることが出来る人たちが必要」だといい、朝鮮王朝時代の「司諌院」を引く。大いに参考にしたい提言である。

 (キム・ヤンギ 比較文化学者)


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