李春根
天安艦が北韓の魚雷攻撃によって沈没された後、政府は盧武鉉政府が中止した対北心理戦を再開すると発表した。大統領の5月24日対国民談話後、一線では対北拡声器を再稼動するための準備が進んでおり、すでに設置が完了された地域もある。まだ、対北心理戦放送は正式に再開されていないが、国連の安全保障理事会で結論が出た後、対北放送を再開する予定と伝えられた。
韓国政府が対北心理戦放送を再開すると発表したことに対して北韓側は前例にない強硬な語調でこれを非難しており、拡声器を照準して撃破射撃すると脅かしている。北側がわが方の対北放送の再開をあのように猛烈に非難している事実だけを見ても対北心理戦放送が北韓にとってどれほど痛かったのかがよく分かる。
盧武鉉政権が対北心理戦放送を中断した時、北韓側も同時に対南心理戦放送を中断したため両方が互いに合意して同等に譲歩したという人もいるが、実状は全くそうでなく、事実上大韓民国が100%譲歩したも同然のことだった。
北側の宣伝を聞いて北韓は暮らし易い地だと思う程愚かな大韓民国の兵士や市民は、少数の従北主義者を除けば殆どなかった。だが、北韓住民や兵士たちは、大韓民国の対北放送を通じて世界のことが分かり、大韓民国が北韓より良い体制という事実も理解するとうになった。
特に、非常に遠くからでもくっきり見える、文字がゆっくり流れる、そして時にはおもしろい絵も見せてくれる電光掲示板を通じて、北韓の兵士たちは流れる文字を一字一字ゆっくり読みながら、大韓民国と世界の動きに接しただけでなく、自分の故郷の天気や気温まで知ることができた。電力が弱いため明るい光が出せなかった北韓の電光掲示板を眺める大韓民国の兵士たちは存在もしなかった。
盧武鉉政権はこのように北韓に全面的に不利な対北心理戦を、北側が願う通り全て中止した。
しかし、対北心理戦を中止した結果は、北韓の核開発、ミサイル開発、天安艦攻撃などで戻ってきた。北側の天安艦への魚雷攻撃で惹き起こされた厳しい現実は、もはや直ちに対北心理戦を再開せざるを得ない状況を齎してしまった。天安艦への北側の魚雷攻撃は、事実は心理戦でなく本当に武力膺懲を加えなければならないほどの挑発だ。「太陽政策」は完全に失敗したから、今や北韓体制を終息させるための別の方案を講じなければならなくなった。
「北韓体制の終息」という言葉に興奮するはずの太陽政策論者らに言いたい。「太陽論」の創始者である金大中元大統領は、「レーガン大統領が銃弾を一発も撃たずソ連を崩壊させたのがまさに太陽政策」と言いながら「太陽政策」を国民に紹介した。多くの国民が本当にそう思った。ところが、レーガンの太陽政策は平和的にソ連を崩壊させたが、金大中・盧武鉉の太陽政策は死に掛っていた北韓を蘇らせ、北韓に核兵器とミサイルまで握らせた。
盧武鉉在任中、韓国は北韓に年40万トン程度の米を提供することで、北韓兵士たちが白い飯を腹いっぱいに食べられるように助けた。兵士たちが腹いっぱい食べられなかったら、その米らは軍用米として備蓄された。北側が軍用米の備蓄率を高めるのに大韓民国が協力したわけだ。このように北韓の軍用米まで提供した「太陽政策」が10年も続いた結果、北韓は崩壊するどころか、かえって大韓民国をもっと脅かす集団として残っているのではないか?
銃弾一発撃たず北韓を崩壊させるどころか、大韓民国は銃弾一発撃てず、強大な対北戦力そのものを失ってしまったのが、それがまさに心理戦だ。今対北心理戦を再開せねばならない時点だ。
心理戦こそ「太陽政策」支持者らが金科玉条の如く謳う「平和的」な方法だ。拳骨で戦うのではなく、口げんかでやろうということであり、戦わず勝つということだ。心理戦こそ歴史以来最も古典的が戦争方式の一つであり、同時に最も優れた戦争方式だ。
大韓民国の政治家や指導者の中で、孫子兵法を熱心に読みその教えが解っている人々が何人なのか、あるいはただ一回でも孫子兵法を読んでみたことのある人が果たして何人あるか疑わしいが、21世紀の世界の卓越した戦略家たちは皆、孫子兵法をそばに置いてその教えに充実に従っている。韓国とは違って、平壌の指導者らは孫子の教えをよく理解しているように見える。
孫子は、最も優れた戦略は、戦争(戦い)をせず勝つことだと教えた。(不戦而屈人之兵善之善者也、第2編謀攻編)。戦わず勝てる最も良い方案は、敵の計略、あるいは敵の戦略を攻撃すること、すなわち伐謀だ。敵の計略を攻撃することの次に良い戦略は、敵の同盟と外交を崩すこと、すなわち伐交だ。
伐謀と伐交はともに軍事力を使用せず戦う戦いであり、現代的な用語を用いればまさに心理戦を通じてやることだ。心理戦こそ敵の心をわれわれに有利に変えることであり、敵の兵士らの戦争意志を、戦いを始める前に崩すことだ。敵の心を変えれば戦争をしなくてわれわれが望むものが得られる。
われわれが、心理戦を通じて北韓兵士たちに真実を知らせ、彼らの心を変えておけるなら、その時北韓の100万大軍、核兵器、生化学武器などは無用の長物になるのだ。
このようにわれわれに決定的に有利な、戦わずに勝利できる有利な方案をわが軍から奪い取った人間たちは、北韓でなく韓国の政治指導者たちだったという事実に驚愕するだけだ。
対北心理戦放送が再開もされる前なのに、すでに韓国政府は最も効果的な手段である電光掲示板は稼動させないことにしたという気が抜けるニュースが伝えられる。同時に、大韓民国内に巣を作っている、平壌側の対南心理戦の産物である「従北左派」らは、韓国の対北心理戦再開に対してあらゆる言い掛かりや牽制をし始めた。
北韓より経済力で33倍も強い大韓民国が、北との対決で圧倒的優位を示せない理由が、正に北韓の対南心理戦が成功した結果だ。去る数十年間、左派理念の洗礼を受けてきた勢力の一部は、大韓民国が行う一切のことを否定し北韓がやる全てに追従する狂信徒になった。正常な社会なら安保においては与野党の区別が無いと言われるが、現在の大韓民国には該当しない話だ。
大韓民国の国家安保の責任を負っている執権勢力は、「国家安保においても与野党がある」この荒唐な現実を速急に匡正せねばならない。
*この文は「未来韓国」2010年6月第2号の「戦略物語」に寄稿したものです。