金暎勲 (ワシントン駐在統一日報論説委員)
今日の世界は、巨大な網(NET)にかかった鳥や魚のようにもがいている。しかし、そこから抜け出すことはできない。冷戦後に始まったこの現象は、徐々に全世界に拡がっている。「網」とは核兵器(Nuke)、経済(Economics)、テロ(Terror)を意味する。
唯一の超大国であった米国は、次第に世界の他の強大国と役割分担をし、協力体制の再編を模索している。
核問題については、5月13日に発効したSTARTIV(第4次戦略兵器削減条約)やNPT(核不拡散条約)により、拡散防止が世界の優先政策になった。
核軍縮に取り組む各国の関心の対象は、北韓とイランだ。NPR(核状況報告書)はこの両国を、先制核攻撃の対象と名指ししている。
オバマ政権は3月のNPT会議と4月の第1次核安保首脳会議で、9年におよぶ「テロとの戦い」を終えるための糸口を探ろうと行動を起こした。結局はイランと北韓が悩みの種であると考えていた矢先に、韓国の西海岸で戦争挑発行為が起きた。天安艦事件である。
米国防省は、事態を注視している。ホワイトハウスは5月19日の声明で「攻撃的態度」(AnactofAggression)という表現を用いた。ロバート・ゲーツ国防長官は「韓国の国防力を強化しなければならないが、『戦争行為』ではなく、テロ行為あるいは休戦協定違反と解釈している」と、武力対立は避けたいとの思惑を示した。
一方、米国の高位情報当局は、金正日の指示による攻撃と見ている。金正日の後継者であるジョンウンの足固めと、住民統治という政治的目的があり、人民軍の能力と忠誠度、さらには韓国と米国の対応を窺うという目的だったと捉えている。
金正日は4月25日、人民軍創設78周年記念日を迎えて人民軍586部隊を訪問し、笑顔で兵士をねぎらった。3月26日の天安艦破壊に対する慰労であったと米情報当局はにらんでいるようだ。
米国上院は5月13日、「S・RES・525」決議を満場一致で採択した。
決議は、5月20日の韓国政府の発表前だったにもかかわらず、北韓による攻撃であることに言及していた。同時に、06年に国連安保理で採択された安保理決議1695や1718、および09年の1874の再確認と実施を強調するものだった。
上院外交分科委員長のケリー上院議員も同じ言葉で北韓の制裁をすべきと主張。20日には下院外交分科委員会のアジア太平洋およびグローバル環境委員会のエニ・ファレオマバエガ委員長が、前出の3決議案の実施とテロ指定国家見直しのための法案を提出した。
北韓はキューバ、イラン、スーダン、シリアとともにテロ支援国家に再指定され、新たな孤立の局面を迎えることになるだろう。世界のテロと核兵器の「問題児」は、イラン、シリア、北韓であるということにもなる。
上海万博会場を訪れたクリントン国務長官以下200人以上の訪中団には、オバマ政権の主な閣僚級人士が半数以上を占めた。質・量ともに破格な訪中団を派遣した背景には、北韓を調整できる“長兄"としての役割を、中国に求めたためだろう。
現在の中国の態度と立場は、全面戦争で対応すると息巻く北韓をなだめるのに一役買っている。「窮鼠猫を噛む」とならないよう、ネズミを手なずけているといってもいい。
すぐにでも北韓に反撃を加えたいという心情も理解できるが、韓国に照準を定めている人民軍のミサイルを意識すれば、むやみに手を出すこともできない。
軍事的報復以上に効果がある制裁を加えるというのが米国の軍事・政治・議会指導者たちの立場だ。
国連決議による制裁はまったく効果がないといわれるが、残る手段は軍事行動のみとなると、北韓には大きいなプレッシャーがかかる。韓国が被る人命や資産面での損失も甚大だが、全面戦争になった場合、それは北韓にとって、国家と体制自体の全滅を意味する。この事実を忘れてはならない。
6カ国協議や韓半島の非核化問題は、少なくとも今回の事件によって、再開まで6カ月以上の時間が必要となった。従来の軌道に戻るのは、早くても年末になるだろう。