在外国民投票に潜む懸念と問題点

日付: 2010年04月07日 00時00分

 在外韓国国民280万人が、2012年4月の国会議員選挙(比例代表)から投票できるようになった。同年12月の大統領選でも投票権を与えられた。今年11月には在外韓国人が5万人以上の国の20カ所の韓国公館で、模擬投票が行われる。
 大きな特徴は、外国生まれの韓国人も大挙して本国の国政に合流する点だろう。韓国現代史と韓国人のダイナミックな経済活動が背景にあることはいうまでもない。永住者を含む国外居住者が100万人単位で国政選挙に参加するのは世界で初めてだろう。

海外選挙人団の影響力

 280万票は韓国有権者の6・9%に当たる。02年と97年の2度の大統領選は、それぞれ57万票差、39万票差で勝敗がついた。在外国民票が国の進路を大きく左右するかも知れない。しかしいちばんの問題は、本国政治に左右され、再び在日社会が分裂と〓藤を抱え込むことだ。

 選挙法は海外での政党支部の結成を禁止しているが、米国では次々と政治団体が生まれ、韓国人会が地盤固めのための活動に振り回されている。日本では、同郷者の親睦団体である道民会の新年会に道知事らが参加する姿が増えた。
 在日社会は、重層かつ複雑に分かれている。国籍は韓国籍だが、日本生まれの日本語しか話せない民団無関心層、それに民団構成員、ニューカマー、「便宜上の韓国籍」者である総連系の人々がいる。そのような中で投票行動における利益誘導や比例代表の誘惑から一部有力者などの本国志向の政治行動が広がる恐れがある。比例ポストをめぐる競争と政党の駆け引きが在日社会の対立を招く危険だ。過去にも比例代表議員が選出された前例がある。本国志向の行き過ぎは民団が取り込まねばならない無関心層のさらなる離脱を招くだろう。 

 在外投票にあたって北系ネットワークを利用した政治的働きかけが活発化するのも必至だろう。労働新聞は2月、韓国の鄭雲燦首相が国会答弁で「統一後の国家理念や形態は自由民主主義と市場経済を基本とする」と述べた点などを取り上げ攻撃した。「最も合理的な方途は『1民族1国家2制度2政府』に基づく高麗連邦共和国を創立することであり、北と南に異なる思想と制度が存在する現実的条件の下で、平和統一のための方途はこれ以外にありえない」と李明博政権を攻撃している。北系ネットワークを利用した北当局と総連の政治的働きかけが活発化するのは必至と見ていい。民団が71年の「録音テープ事件」や「ベトコン事件」、06年の「5・17事件」のように、分裂と葛藤に巻き込まれる危惧は拭いきれない。

 事業などのためから朝鮮籍から韓国籍に切り替えたいわゆる「便宜上の韓国籍」の総連系の人々の数はこの10年で数万人になる。韓国人永住者・在留者が120万人以上という米国で北出身の韓国籍者と市民権を得たノースコリアンは50万を数える。

公正確保と在外団体の中立性

 昨年11月に韓国中央選管が発表した海外有権者数予想で、大阪と東京は10万人を超えた。国別では米国87万9000人、日本47万3000人、中国33万1000人だ。
 在日韓国人の投票率は「3~5%台」と予測する専門家もいるが、親北的な大統領や国会議員を当選させるため、北系ネットワークはあらゆる手段を動員してくるだろうと2年先を危惧する声もある。
 OECD加盟国ではしんがりとなったが、韓国の在外投票実施は現地生まれの永住者を含めた在外韓国人に国政の門戸を開放した画期的なものだ。しかしながら、分断国家の現実が在外選挙を通じて現れることは避けられない。公館においては選挙の公正性と自らの中立性をいかに確保するのか。

 在外国民においては団体の中立性とともに居住国での選挙および投票態度を見せつけることになる以上、在外有権者としての自律性が問われる。それを防ぐことが居住国での権利伸長につながる。

 


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