脱北者、携帯電話で緊迫の情報戦

〈連載〉脱北者が語る ベールの向こう③
日付: 2010年03月03日 00時00分

 2010年、北朝鮮内部で起きた大きな変化の一つは、金正日批判だ。咸興の大学と中学校では「金正日政権を覆し、自由朝鮮を作ろう」という落書きが発見された。金正日を「大馬鹿」とののしった党幹部の存在も報じられている。自由北韓放送記者らに、金正日観を脱北前後で比較してもらった。


―北朝鮮住民にとって、金正日はどのような存在か。

 チョ「神のような存在。その一言です」
 リュ「北朝鮮にいた時は、独裁体制ということも知らなかった。指令が下されれば『分かりました』以外の答えはなかったのです」
 キム「人だとは思っていますが、普通の人とは違う、空から降りてきた特別な非世俗的存在と考えていました」
 北朝鮮住民は韓国ドラマなどを見て、外の世界の実情を知っているのではないか。
 キム「3世帯に1世帯は韓国ドラマなどを見ているでしょう。韓国人がよい暮らしをしているのは誰でも知っていることです。韓国のラジオ放送を聞いて脱北した人は相当多いはずです」
 リュ「平壌にいる時、友人と『鉄格子のない監獄(北朝鮮社会)に閉じ込められて生きている』という話をたびたびしました。いっそ戦争が起きればよいといいましたよ。最後にこの国(北朝鮮)のため、銃弾になって戦おうとね」


―北朝鮮で金正日を批判する人が出てきたというのは事実か。

 キム「最近の脱北者らの話を聞くと、住民は金正日を呼び捨てにしています。悪口も言います。昨年の貨幣改革以後、いたるところに金正日をののしる落書きができ、金日成の肖像画がある紙幣まで燃やされたのです」
 チョ「今や多くの住民が、金正日は世襲の独裁者で、自分たちを抑圧しているという事実を知っています」
 アン「三男が後継者と言われていますが、後継者が指導者になっても生活が良くなると期待する人はいません。金正日の後継者だからやむを得ずついていくだけだと自暴自棄になっています」
 キム「住民は自由と民主が何かも知らない。韓国のドラマを見てラジオを聞いて、外部のニュースにも接して韓国と西側世界に対する幻想を膨らませているが、自分たちが能動的に何かするという意欲は出ません」
 アン「言論の自由がないためです。捕らえられる恐怖が先に立ち、恐怖に飼い慣らされています。住民によるクーデターは不可能なのです」


―北朝鮮現地の情報をリアルタイムで入手する秘訣は何か。

 アン「北朝鮮の携帯電話加入者は9万人といわれていますが、平壌と新義州の一部に限定されています。私たちは中国の携帯電話で国境都市の会寧と茂山、清津などの通信員から情報を入手します。国境から10キロメートルまでは電波が届きます」
 キム「最近は当局の監視が厳しいですね。3分あれば探知機で通話者を追跡できるようです。携帯電話が繋がると、最低限の情報を短時間で聞き出しています」


 北朝鮮民主化の近道は政権を握っている金正日の追放だ。脱北者らが対北放送をし、風船で内外情報の宣伝ビラを飛ばずのはそのためだ。

 住民が最も関心を寄せるのは金正日関連情報だという。そして脱北者は、域外に出て、金正日とその政権の実体を知って受けた衝撃を、そのまま住民に知らせたいと考えている。対北ビラに金正日の家系図を入れ、自由北韓放送が政権の核心部を暴くニュースを放送するのも同じ理由だ。

 脱北記者らはベールの向こうに隠れた金正日を追放するためには、住民自らが金正日に対する幻想から目覚めるべきだと訴えている。

(ソウル=李民晧)


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