昨年11月30日、デノミネーション(通貨単位の変更)を実施した北朝鮮はその後、「不動産管理法」を制定するなど経済への締め付けを強化している。配給制度が崩壊し、市場メカニズムを導入した02年当初、農産物だけだった市場は急速に拡大し、国有の家屋まで取引されるようになった。こうして生まれた中産階級が稼いだ資産の没収と、憂慮していた資本主義の芽生えの根絶が目的だ。
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昨年末、年賀はがきを買い求める平壌市民(写真=連合ニュース) |
北朝鮮のデノミ断行から1カ月が過ぎた。報道によると、住民の反発は強く、当局は貨幣の交換上限額を当初の15万ウォンから30万ウォン、最近は50万ウォンに引き上げたという。年末の給与は経済原則を無視し、従来の金額で支払われた。
12月16日には「不動産管理法」が制定され、不動産取引が規制された。02年7月経済の現実化路線以降、別表資料のとおり、食料を手に入れる方法として家・家具・什器等の売却が41%行われた。当局は当初、不動産取引を黙認していたが、国家の住宅を売買した者が大量に出はじめたため、規制を強化。紡績工場名義の住宅に化粧品工場に勤務する者が住んでいたケースもあったという。
12月22日には域内での外貨使用を全面禁止。不足する外貨の集中管理も兼ねているが、外貨を持っている政府高官や庶民への締め付けだった。ただ、保有者は外貨を隠し続けていると見られる。
02年の現実化路線転換で配給体制が崩壊した後、商売をしないと生きていけなかった住民たちの「市場」は日々隆盛し、工場すら国家計画よりも市場販売に関心を持つに至った。取り締まる役人さえ蓄財に励んでいた。
しかし「新通貨への交換」の処置だけで計画経済への復帰は保障されない。肝心の供給不足を補えず、すでにインフレは再び進み始めている。
経済を無視した給料据え置き
昨年末、国家保衛部と人民保安省、軍人に対しボーナスの形で6000ウォン、農民1世帯当たり10万ウォンが支払われた。これは通貨が100分の1に切り下げられる前と同額。つまり、額面上の所得は一気に100倍になった。
しかし、商品価格は値上がりしており、そこに買い占めが加わることで物不足が深刻化し、日ごと物価は暴騰しているという。
デノミ直後、コメ1キロの価格は30ウォンだったが、今は1000ウォン台に迫っている。対米ドルレートもデノミ直後の1ドル=75ウォンから、年末には400ウォン以上に急落。旧貨幣基準だった3000ウォン台に下落するのは時間の問題と報じられている。
締め付けと監視の毎日
北朝鮮でKEDO韓国代表として2年間勤務した李賢主氏は、著書『北朝鮮断末魔の虫瞰図』(ビジネス社)で、北で毎日退勤後に行われている各学習会に言及している。月曜日は金日成・正日語録の学習会、火曜日はスローガンに関する学習会、水曜日は主体農法の学習会、木曜日は何もないが、金曜日は自己批判もしくは他人を告発する日と決められている。目的は住民への締め付けと監視だ。
最近は、「150日戦闘」その後の「100日戦闘」により更に監視が強められているという。このような生活を強いられている住民にとって反発や抵抗は難しい。それは日本の戦時中の「隣組」社会以上の厳しさだろう。
また同氏はKEDOの職員が金正日の写真が載っている新聞紙でものを包んだだけで大騒ぎなった例を紹介し、誰も止めることができなかった体験を述べている。その理由は金正日の写真がぐちゃぐちゃになるからだった。
同様な事例としては、03年の大邱ユニバーシアード大会で、金正日の肖像が描かれた垂れ幕がよじれていただけで「美女応援団」が大騒ぎした事件があった。北朝鮮では、発見者は大騒ぎせざるを得ない。現場監督も上から指示が来るまで、その大騒ぎを止められない。止めると自分自身も告発されてしまうからだ。
ところが今回のデノミ後、金日成の肖像画がある旧紙幣が破り捨てられたりしている。韓国の北朝鮮専門インターネット新聞「デーリーNK」によると、道端に座り込み「本当にあきれた」と泣き叫ぶ人もいるという。
今のところ大きな衝突は伝えられていないが、食糧不足が飢餓に発展すれば、一度市場メカニズムを経験している住民らは再び市場を復活させるだろう。また日常的に監視されている住民でも当局との衝突は避けられなくなる。「生存」に直結する問題だからだ。
在欧の北朝鮮エコノミストは、旧ソ連の崩壊後、ロシアからの支援がなくなり、市場メカニズムを導入せざるを得なかった02年前の水準に戻すことが目標と明らかにしている。
しかし、住民の生存(=市場メカニズム)は現在の北政権にとって、体制維持の障害になる。また、配給制度の復活には、旧ソ連のように外国からの支援が欠かせない。北朝鮮の経済再生の前には深刻な矛盾が横たわっているのだ。