金鍚友(21世紀国家発展研究院院長)
北韓は体制を維持するため、02年7月から経済改革に取り組んだが、効果はなかった。
ヤミ市場が現実として発展・巨大化し、体制運営が困難になっているのに、貨幣の流通には無責任だった。
北韓では92年以降、経済に関する政府の公式統計は発表されていない。それほど経済が厳しいということだ。
韓国の李政権と米国のオバマ政権は、韓国国内の親北派が考える以上に原則的な対北姿勢をとってきた。だからここへきて北は態度を軟化させていた。
北韓人民と軍は敵対関係にある。人民の作物を、軍が略取していくからだ。韓国は北韓の急変に備えるべきだろう。
重村智計(早稲田大学 国際教養学部教授)
今回のデノミは、インフレ対策が目的だ。
北朝鮮の一般労働者は、給料だけでは暮せない。それほど貧富の差があり、インフレは進んでいた。このような状況に危機感を覚えた長老級の幹部らが、今回の措置を思いついたのだろう。実際、デノミによって物価は名目上100分の1になったが、労働者の賃金は据え置かれたという。
しかし、資本主義経済ですら成功させるのが難しいデノミを、建前上インフレがありえない社会主義経済の北朝鮮ができるはずはない。一時的にインフレは解消されるだろうが、物不足なので必ずもとの木阿弥になる。
また、今回の措置は、張成沢派が対立する李済鋼派の力を削ぐためにやったという側面もある。張派はデノミを事前に知っており、手持ちのウォンを外貨に交換していたに違いない。
現在行われている米朝交渉は、支援を引き出すのが目的ではないだろう。2012年までに核開発を完成させたい北朝鮮が、時間稼ぎのために行っている。デノミとは関係ないと見ていい。
石丸次郎(アジアプレス代表)
北朝鮮内は大混乱だという。人が集まりそうな場所には私服・制服姿の保衛部や軍人が見張りをしている。
市場の統制は効かず、経済は市場を中心に動いていた。今までも対策は行ってきたが、今回の措置は相当な荒療治だ。目的は、権力層が市場の利益を民衆から収奪するためだ。
匿名(韓国情報筋)
北韓人民は市場経済に頼っていた。政府は物理的な暴力機関である軍を持っているが、監視にあたる保衛部の要員は、袖の下をもらっているから働かない。
市場経済の浸透は、いわば「下からの戦争」だ。しかし今回の通貨交換により、北韓最大の卸売市場である平城市場も閉鎖された。
北政府は公務員の給料も払えないと聞く。官吏は賄賂を人民元で要求している。それほどまでに北韓ウォンへの信頼は落ちている。
金正日は通貨の信頼失墜を覚悟しているだろう。そして米国が自らの体制保障をしてくれるまでは何とか時間稼ぎをするだろう。
米国と韓国が金正日の要求に応じなければ、いずれ復旧する市場が勝つ。「上の方針に下は対策あり」ということだ。