著者は韓国で活躍する公認会計士。日系企業約150社の韓国子会社や支店設立、租税訴訟に携わってきた。韓国を代表する日本通の会計士といっていいだろう。
韓国でビジネスをする上での留意点を柱としているものの、著者の韓国人と日本人に対する洞察力と分析力に脱帽させられる。著者の抜きん出た実績は、それらの賜物であることが容易に想像できる。韓国や韓国人の特徴が書かれているだけの類書とは違い、ビジネスの基本は人付き合いであることも読み取れる一冊になっている。
本書は7章に分かれており、「ハングル」、「好き嫌い」、「上司」、「縁ネットワーク」、「会社のカネ」、「おもてなし」、「隣人」についての「オキテ」が述べられている。客観的なデータや韓国のことわざを多く用い、理解しやすい内容になっている。
7項目について両国の相違点と共通点を挙げつつ、それに対する分析が述べられている。ただのビジネス書ではなく、文化や習俗の比較という点でも幅広い層の読者が満足できるような深みがある。その筆致は会計士というより学者のものに近い。
著者は結びで、異民族同士が協力する際に重要な項目を5つ挙げている。
▼言語と文化を学ぶこと▼文化と気質を理解すること▼固定的あるいは画一的な模範解答を探さないこと▼間接的な知識に依存しないこと▼変化の速度を考慮すること。
注目すべきは、最後の「変化の速度」に関する部分だ。これを一言で指摘している点において、本書は特色付けられる。良くも悪くも「早い」韓国社会の特性が、日本人ビジネスマンを困惑させる最大の要因であるということだ。
変化の速度について著者は、歴史学者アーノルド・トインビーの言葉を引用しつつ、変化を知性で理解しても、潜在意識レベルの変化には時間がかかると述べている。
近年ますます活発になる韓日間のビジネス交流。その知性的な理解には最適の一冊といえる本書だが、著者は、その先の潜在意識レベルの認識の変化が早く到来することを願っているように感じられる。
(秋一紅)