容易でない「東アジア共同体」実現

リップサービスに終わりかねない
日付: 2009年11月05日 00時00分

アジア経済文化研究所首席研究員 笠井信幸

 

「東アジア共同体構想」に関する論議がかまびすしい。鳩山新総理が提唱しているアジア外交戦略の新機軸である。2009年9月21日、外交デビューとなったニューヨークでの胡錦濤国家主席との初会談においてその構想の骨格を示し好意的な反応を得たのを皮切りに、10月10日に北京で開催された第2回日中韓サミット、10月24日タイで開催された第12回日ASEAN首脳会議、同日の第12回ASEAN+3首脳会議、そして翌25日の第4回東アジア首脳会議(EAS)と立て続けにアジア外交の機軸である東アジア共同体構想を披露した。

 さて、鳩山氏は東アジア共同体構想に関して「東アジア地域をわが国の基本的な生活空間ととらえ、経済協力と安全保障の枠組みを作る」ことによって共同体構築へ向かうとして、共通通貨創設、大学間単位互換などを唱えているが具体的な全体像は分からない。これまでの発言を追っても「日中の違いを認めながら違いを乗り越えて信頼関係を構築したい」といった抽象的発言しか得られない。

 東アジア共同体構想は、1980年代初のマレーシア・マハティール首相のルックイースト政策(日本・韓国に学べ)に源流があり、その後90年に東アジア経済グループ(EAEG)(後に東アジア経済協議体〓EAEC)を提唱したが米国の反対、日本の消極的対応で苦境に立った。しかし、ASEANを中心に中国、韓国そして最終的に日本を加え、97年12月クワラルンプールで第1回ASEAN+3首脳会議が開催された。そしてその決意は05年の「クアラルンプール宣言」において「地域および国際の平和と安全、繁栄および進歩の維持に貢献する東アジア共同体を長期的目標として実現」し、「ASEAN+3がこの目標を達成するための主要な手段であること、ASEANが推進力」となることが宣言され、今次ASEAN+3の議長声明でこのコミットメントが再確認された。鳩山構想もこの歴史の中で出たものであり、そうであれば既存の地域協力システムにどう自論を適合させるのかを明らかにすべきだ。あえて言えば、先輩に向かって持論のように構想を披歴するようなもので、これまで蓄積されてきた実績に日本の新政権としてどのように貢献するのかを具体的に伝える必要があろう。

 現在ASEAN+6(日中韓、オーストラリア、インド、ニュージーランド)で東アジア首脳会議が構成されているが、構成国内でもオーストラリア、インド、ニュージーランドは含めないとのコネクティブネックがある。また共同体はASEANが推進してきたことから、日中韓大国主導の共同体構築はいかがなものかとの意見もある。さらに日中韓は2国間協力が主体で、相対的に弱小であったASEANは地域協力が必要であった。それだけにASEANと日中韓の融合が具体的手続き段階に入ってどこまで利害調整が可能かという懸念もある。今回のASEAN+3議長声明の中に「東アジア共同体構築に向けた議論を改めて活性化するとの日本の目標に留意」すると盛り込まれた。つまり、鳩山政権は構成国に実効ある対応を期待されているのである。


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