月刊朝鮮(2001年9月号)
例外を認めない「モントリオール協約」(民間航空の安全に対する不法的行為の抑制のための協約、1971年)は、金正日をKAL 858機テロの指令犯と発表した韓国政府に「避けられない義務」を強制している。許容範朝鮮日報ワシントン特派員(heo@chosun.com)
金正日を逮捕せねばならない国際協約上の義務
「北韓の国防委員長の金正日が、万一、ソウルを訪問する場合、大韓民国政府は彼を逮捕すべきか」
この質問は、金正日のソウル答礼訪問を待ちこがれて大歓迎する側には荒唐に聞こえるだろうが、金正日をソウルに招請する前にわが政府が深く検討すべき事案だ。
わが政府は、1987年金賢姫などによる大韓航空858機爆破テロ事件に対する捜査結果発表を通じて、そのテロが金正日の指示によるものだったと公式に発表し、テロ犯である金賢姫自身は、彼女が「金正日の親筆指令」により犯行を犯したと告白した。
また、わが国は、航空テロ犯が自国の領土内にいる場合、いかなる例外もなしに必ず逮捕せねばならない義務を規定した「民間航空の安全に対するモントリオール協約」に加入している。この「モントリオール協約」には、いわゆる「外交的免責」に関する規定も無い。
したがって、法理的に言えば、金正日が「事実上の国家元首」であれ、あるいは大韓民国政府の招待を受けた「事実上の国賓」であれ関係なく、わが政府はこの「モントリオール協約」によって、必ず金正日を大韓航空858機の爆破テロ教唆犯として逮捕し、裁判に掛けるべき国際的義務を負っているのだ。
わが政府が金正日を逮捕せねばならない国際的義務を負っていることは、モントリオール協約と、大韓航空858機爆破事件に対するわが政府の捜査結果、そしてこれに対応した国際社会の対応措置などから法理的解釈に何の無理がない。
まず、「モントリオール協約」を見よう。
この協約の公式名称は「民間航空の安全に対する不法行為の抑制のための協約」(Convention for the suppression of unlawful acts against the safety of civil aviation)で、1971年9月23日、カナダのモントリオールで締結された。韓国は2年後の1973年加入し、北韓も1980年8月13日加入して締約国になった。
この協約は、現在(2001年)加入国数だけでも151ヶ国に達し、民間航空機を保有・運行する事実上世界の全ての国家が加入している世界最大の国際協約の一つだ。一言で、世界民間航空機を対象にしたあらゆる犯罪を取扱う国際法であり、軍用・税関・警察機を除いた全ての民間航空機に関する犯罪に適用される世界的規範であるのだ。
モントリオール協約は、次に列挙する五つの行為類型をこの協約の適用犯罪行為と規定し、如何なる者もこういう行為をする場合は犯罪を犯したものとすると規定している(第1条第1項)。
その五つの類型は次の通りだ。
1.飛行中の航空機に搭乗した者に対して暴力行為を行い、その行為がその航空機の安全に危害を加える可能性がある場合。
2.運航中の航空機を破壊する場合、またはそのような飛行機を棄損して飛行を不可能にするか、飛行の安全に危害を与える可能性がある場合。
3.いかなる方法によってでも、運航中の航空機上にその航空機を破壊する可能性があるか、その航空機を棄損して飛行を不可能にする可能性があるか、またはその航空機を毀損して飛行の安全に危害を与える可能性がある装置や物質を設置するかまたは設置するようにする場合。
4.航空施設を破壊あるいは損傷するか、その運用を妨害し、そういう行為が飛行中の航空機の安全に危害を与える可能性がある場合。
5.それが虚偽であることが分かる情報を交信して、それによって飛行中の航空機の安全に危害を与える場合。
協約は、引き続き「如何なる者でも」、▲上に規定された犯罪を犯そうと試みた場合や、▲そういう犯罪を犯すか、または犯そうと試みる者の共犯者の場合でも、犯罪を犯したものと見ると規定している(第1条第2項)。
金賢姫証言によって、金正日のテロ指令が明らかに
一方、金賢姫と捜査当局によれば、金正日は1987年11月29日、大韓航空858便のボーイング707機がビルマ(現ミャンマー)近海のアンダマン海駅で空中爆発して墜落する事件が起きる1ヶ月半月前の1987年10月7日、この二人(金賢姫と、自殺した他の犯人の金勝一)に、「88ソウル・オリンピックへの参加申請を妨害のため大韓航空旅客機を爆破せよ」と親筆工作指令を下した。その後、二人はまた11月10日、「11月28日の23時30分、バグダッド発ソウル行の大韓航空858機を爆破せよ」という最終指令を受けてこの飛行機を爆破したという。
この二人は、ラジオ時限爆弾と液体爆薬をこっそりと隠して搭乗した後、7時間後に爆発するように設置してから、寄着地のアブダビ空港で降りたのが明らかになった。
このような捜査結果と犯罪者自身の告白によれば、金正日はモントリオール協約の第1条第1項の3番項目の犯罪(爆破物質と爆破装置の設置)に対する教唆犯になるのだ。教唆犯は、共犯の一種だから、金正日は大韓航空爆破の共犯として犯罪の構成要件上に何の欠点がないのだ。
参考に、わが刑法は、第31条1項で、他人を教唆して罪を犯すようにした者は、罪を実行した者と同じ刑で処罰すると規定し、教唆犯を、罪を直接犯した正犯と同じ刑で処罰するようにしている。金賢姫は死刑宣告を受けてから特別赦免された。
さらに、その第2項と第3項では、各々教唆を受けた者が犯罪の実行を承諾して実行の着手に至らなかった時は、「教唆者と被教唆者を陰謀、または予備に準じて処罰する」、「教唆を受けた者が犯罪の実行を承諾しない時も、教唆者に対しては前項と同じだ」と規定し、被教唆者が犯罪を実行しない時も教唆者を処罰している。これは世界的に確立された法理論とも符合する。
国際社会も、大韓航空858機の爆破が金正日の指示による北韓工作員の仕業であることが明らかになったことで、これを根拠にして北韓に対して強力な制裁措置を取った。
アメリカはこの事件後14年経っても北をテロ支援国名簿に登載
その制裁の代表的なケースがアメリカだ。アメリカは1979年、国際的に拡散するテロを防止するため、いわゆる「反テロ法」を制定し、毎年「テロ支援国」名簿を発表しながら、テロ支援国と指定された国家に対しては、いわゆる不良国家(rogue state)という名を付けて強力な貿易・経済制裁措置を取っている。
アメリカは、1987年の大韓航空858機爆破事件が発生するや、反テロ法および武器輸出統制法により、翌年の1988年1月20日、北韓をテロ支援国家と指定した。アメリカは、以後去る4月30日発表した例年の世界テロ報告書で、北韓をはじめ、キューバ、イラン、イラク、リビア、スーダン、シリアなど7ヶ国をテロ支援国と指定したことで、北韓に対しては1988年1月以後14年もテロ支援国名簿に入れた。
北韓は、ブッシュ行政府が出版して状況が変わったものの、昨年のクリントン政府の末期にはほぼテロ支援国の名簿から除外される状況にまで至った。これには、昨年の6月15日、「南北頂上会談」後、金大中政府の粘り強い努力も作用した。昨年の10月、北韓の趙明禄次帥が、アメリカを訪問した時、米・朝は「国際テロに対する米・北共同声明」を発表しながら、「アメリカ法律の要件を充たす次第、北韓をテロ支援国から除外することにする」と明らかにしたことがある。
去る(2001年)8月4日のプーチン・ロシア大統領と金正日間の「モスクワ宣言」にも、この部分が第1項に載っている。金正日がアメリカの貿易・経済制裁措置から脱するためどれ程もがいているかを示しているが、ブッシュ行政府は、依然金正日に対して「信じられない指導者」という疑いのレッテルを付けている。
大韓民国政府は金正日逮捕の義務を免れない
「モントリオール協約」は、誰もが安心して飛行機旅行ができるように民間航空の安全を保障する最高の国際法と言える。また、国際法(国際協約は国際法の一種であり、国際法は国内法と同じ効力を持つ)が、その実効的効力を保証されるためには、それだけ規定が明確でなければならず、この規定の違反行為に対して厳格な法適用が例外なしになされねばならない。
「モントリオール協約」が世界民間航空の安全に関する最後の砦ながらも、わずか16条の規定だけでできているのは、それほど例外や複雑な解釈の余地を残す規定らを排除しているためだ。
例えば、この協約加入国の義務を規定した協約の第3条は、「各締約国は、第1条に規定された犯罪を厳重な刑罰で処罰できるようにする義務を負う」という一つの文章になっている。
金正日のソウル答礼訪問は、彼が大韓民国政府の司法権が実効的に及ばない地域から、実効的司法権内に入ってくることを意味する。それならわが政府は金正日に対して具体的にどうすべきか。
「モントリオール協約」は、こういう場合、加入国がどう行動せねばならないかということまで明確に規定している。協約の第6条と第7条にある。
「犯人および犯罪容疑者がその領土内に滞留している締約国は、彼を拘置するか彼の身柄確保のためのその他の措置を取らねばならない…」(第6条)
「その領土内で犯罪容疑者が発見された締約国は、もし同人を引き渡さなかった場合、例外なしに、またその領土内で犯罪が行われたものなのかの可否を問わず、訴追をするために権限のある当局に同事件を回付せねばならない。そういう当局は、その国家の法律上重大な性質の一般犯罪の場合においてと同様な方法で、その決定を下さねばならない」(第7条)
この規定によれば、金正日がソウルに来る場合、わが政府は彼を直ちに逮捕して裁判に回付しなければならない義務を負うことが明確だ。さらに、規定を詳しく読んでみると、わが政府は、仮に爆破された大韓航空858便がわが国の飛行機ではなくても、金正日を犯罪容疑者として逮捕し、彼を航空機登録国に引渡すか直接彼を裁判に回付しなければならない義務を負っている。
まさにこれが国際法でいういわゆる「普遍管轄」の理念で、「モントリオール協約」はこれを最も具体的に具現することで、万国共通の国際法として強力な力を持っている。普遍管轄(Universal Jurisdiction)というのは、簡単に言ってこの協約の第1条に規定された罪を犯す者に対しては、どの国でも捜査と裁判の管轄権を持つということだ。誰でもそういう犯罪者を見つければ、逮捕して裁判に回付できるということで、これは民間航空機に対するテロ犯罪は、人類普遍的利益の次元で厳しく処断されねばならないという理念を盛込んでいる。
「普遍管轄」が適用されるまた別の犯罪は、海賊行為が代表的な場合だ。例えば、ある海賊団がわが近海で海賊行為をすれば、彼らがどの国の国民であれ、わが政府は彼らを捕まえて調査して裁判できるということだ。ここでわれわれが念頭に置かねばならないのは、モントリオール協約が具現する普遍管轄の理念は、「管轄権を行使できる」でなく、「やらねばならない」と規定しているという事実だ。
国内法廷に告発されている金正日
金正日のような航空機テロ犯を国際社会がどのように取扱っているかは、1988年12月スコットランドのロッカビー上空で起きたパンナム機103便の爆破事件の場合がよく教えている。
この爆破事件で270人が死亡した惨事になるや、英・米は、モントリオール協約によって、国家情報要員と判明された二人のリビア人を爆弾装置の嫌疑で起訴し、この裁判のため嫌疑者を引渡すようにリビア政府に要求した。イギリスとアメリカは、この事件がリビア政府の支援で行われたと主張した。リビアが犯罪容疑者の引渡し要求に応じないと、英・米は、国連安保理を動かして、犯人の引渡しを要求する安保理決議を採択し、国連次元の強力な経済制裁を加え始めた。
リビアは以後国際司法裁判所に提訴までしながら、「われわれが犯罪嫌疑者たちを関連当局に回付したため、引渡せない」と抵抗したが、結局国際社会の圧力に屈服して10年が経った1999年4月5日、容疑者の二人を国連に引き渡した。
英国のスコットランド裁判所は、去る(2001年)1月31日、この「ロッカビー事件」のリビア人容疑者2人中1人に有罪宣告を言渡し、他の1人には無罪を宣告した。この時もジョージWブッシュ米大統領は、「リビア政