趙甲済
李明博大統領が「北核問題」の解決策として提案したいわゆる「グランド・バーゲン」が拗れている。まず、名称が良くない。何事も、名称を下手に付けると苦労するようになる。北韓が核を放棄すれば、北韓政権に対して体制保障と経済支援を全面的に行うというのが「グランド・バギン」の核心だ。それなら一括妥結という言葉が正しい。なぜ韓国語があるのに、不慣れな英語を使ったのか分からない。
1.「バーゲン(bargain)」という言葉は適していない。取引、駆引きをするという意味が強い。北の核武装問題は、原則的に駆引きの対象でない。北韓政権は、1994年のジュネーブ合意を通じてすべての核施設を廃棄すると約束した。その代価として韓国は軽水炉を建ててあげることにして、数十億ドルを投じて工事を進めた。アメリカは重油を提供した。金正日政権はその間ウラニウム濃縮方式の原爆開発を不法的に進めてきた。この事実が暴露されたことで、2002年以後「第2次核危機」が醸成され、「6者協議」が行われた。北韓はこの会談で、核を放棄すると約束(2005年)した。その1年後、金正日はこの約束を破って原爆実験をやった。「6者協議」は、2007年2月、再び北韓側から核廃棄の約束を取付ける合意をしたが、北韓政権はこの約束を履行せず、今年、二度目の核実験をやった。北韓は受け取るものは全部取って、約束は履行しない。
こういう北韓を相手に商売人の取引と駆引きが通じるだろうか? 不法を日常行う集団に対して駆引きという言葉を使うこと自体が、法の精神と道徳性を放棄することであり、心理的にすでに屈し始めることだ。こういう姿勢では、絶対に駆引きで勝てない。敵や悪に対して、法的、道徳的基準を放棄した協商は、絶対に国益を図れない。
2.「グランド・バーゲン」は、履行が不可能な提案だ。 一括妥結をどうやるというのか? 金正日が原爆を放棄した後、支援するのが正しい。ところが、金正日が先に武装解除をして自らが持ったカードを捨てるはずがない。核武器を放棄すると約束した時点で支援をすれば、支援だけを受取って放棄しないという事実が何度も実証された。「行動対行動」の原則で、核物質や施設の廃棄過程と段階的な支援を交換する方式も試みたが、北韓が時間を引延ばし、約束を守らず失敗した。こういう段階的な方式は「一括妥結」でも「グランド・バーゲン」でもない。
同時解決という方式が理論上には存在する。明日、金正日が核施設を全部廃棄すれば、あさってから支援を始めるという式だ。本当に「核」を廃棄したのかどうかを確認するのに時間がかかる。数年が掛かるかも知れない。北韓がこの確認作業に協力しないと不可能だ。金正日政権が正直に核施設と軍事施設を全部公開するはずがない。したがって、「グランド・バーゲン」、つまり「同時的一括妥結」は不可能だ。北韓政権に対する体制保障も不可能だ。東欧の共産体制を解体させたような民衆蜂起が起きた時、国軍を送って金正日のため示威を鎮圧するということなのか?
3.「グランド・バーゲン」に拘ると金正日に利用される。北韓側に駆引きを提案したため、これからは金正日に強く臨むのも難しい。李明博大統領は、金正日が無理押しをしても我慢してこそ協商が始められると思うはずだ。すでにそういう傾向が見える。北韓軍の「臨津江無断放流事態」に対する微温的対処が一例だ。「グランド・バーゲン」に執着すれば、何も得ることなしに「金剛山観光」や対北支援も再開するだろう。こうすれば、国連安保理の対北制裁決議をわれわれが紙屑にすることになる。
4.時間は李明博大統領の方でない。任期のない独裁者を相手に任期のある韓国大統領が、焦って協商に臨めば百戦百敗だ。任期中に成果を上げるため欲を出せば、譲歩せねばならない。「私益」のため「国益」を犠牲にさせねばならない。
5.このような「6者協議」は、絶対に成功できない。アメリカと韓国が軍事的対応策を自ら排除する限り、中国が北韓政権を圧迫しない限り、金正日が核武器を放棄するはずがない。
6.違う方法を使わねばならない。
一つ、国際社会が北韓政権の核武装を廃棄させられないなら、韓国は合法的にNPTから脱退して、自衛的核武装をするほかないというカードを切らねばならない。
二つ、韓・米・日が協調して、中国に圧力を加えなければならない。
三つ、韓・米・日の三ヶ国の民間部門を中心に、金正日を戦争犯罪、大量虐殺、反人類犯罪の嫌疑で国際法廷に立てる運動を展開する。
四つ、韓国軍は北韓に対する先制攻撃や「斬首作戦」概念の積極的かつ攻勢的な作戦計画を導入しなければならない。政府は北韓の「民主化」を促進する対北工作を再開しなければならない。
五つ、国際的な対北金融制裁を一層強化しなければならない。
六つ、「無条件的な対北支援」は絶対に再開してはいけない。
七つ、憲法に立脚した「朝鮮労働党政権の平和的解体による韓半島の自由統一」を対北政策の目標としなければならない。対北政策の目標は、「現状管理」でなく「自由統一」でなければならない。対北政策は、自由統一政策でなければならない。
八つ、李明博大統領は、日本と中国が接近する時、韓国の立地が縮まるという点を直視して、これを牽制できる韓米同盟の強化に一層積極的に臨むべきだ。そういう点から、韓米連合軍司令部の解体を最優先的に中止させねばならない。
九つ、国軍は休戦ライン上の対北宣伝放送を再開して金正日を圧迫し、北韓住民たちに真実を伝えなければならない。
十、対北政策を真実、憲法、正義、自由の原則の上に立て直さねばならない。
結論的に「グランド・バーゲン」は成功しない。金正日を騙そうとして自らを騙すことになる。「北の核武装問題」は「金正日問題」だ。金正日が大量殺傷武器そのものだ。金正日を無力化しない限り、核武器の廃棄は不可能だ。金正日を権力の座から追い出すか、怖気づくようにするか、生きる道を探すようにしなければならない。金正日がダイエットをせざるを得なくさせてこそ、北韓住民たちが太り核武器問題も解決されるはずだ。