対北支援食糧は「常務組」を通じて組織的に軍隊へ

元北外交官が作成した資料から対北支援物資の横取りの具体的情況が明らかに
日付: 2009年03月02日 02時38分

金東洙(脱北者、国家安保統一政策研究所責任研究委員)
北側の外交政策決定過程や対北支援食糧の転用実態が窺える専門的資料が発表された。
北韓外交官出身の金東洙・国家安保統一政策研究所責任研究委員が作成した、「北朝鮮の外交政策決定過程と『常務組』運営実態」という題の資料によれば、北韓の外交政策は、金正日が党権を掌握した1970年代中盤から社会主義特有の集団的政策協議および決定体系が有名無実化し、専ら金正日の意志で決定されてきた。
 
北韓の対外政策決定は、憲法上対外政策の基本原則を樹立する最高主権機関である最高人民会議および傘下機関である外交委員会や、憲法上対外政策の樹立と海外駐在公館、大・公使の任命および召還などを行う中央人民委員会があるが、これは北韓に3権分立が形成され、民主主義的代議政治が実施されていることを対外に示すための形式に過ぎない。
 
しかも、金日成死亡後、金正日の「唯一指導体制」と「党規約」、「唯一思想体系確立10大原則」が支配する今日、北韓には過去東欧圏が運営した協議体制などは運営されず、強・穏健派の対立も存在していない。
過去、北韓の対外政策を担当した(労働党)国際事業部と外務省、統一戦線部、外交団事業総局など各機関も、現在は機能が止まったか金正日の直属機関に転落した。
 
他国の共産党など左翼政党やその他の執権党および野党らとの関係発展を担当した労働党中央委の「国際事業部」は、金正日の指示により1993年から機能が停止し、南北会談および非修交の国々との外交政策作成と北側の機関らの統一された対外活動を調整した外務省は金正日の直属になった。
 
北韓の外交政策は、1970年代の中盤までは、他の社会主義国家らと同様に、最高政策機構である労働党政治局で定期的な協議および最高人民会議での採択過程を通じて進められたが、その以後は、金日成と金正日の直接的な指示や批准により、党政治局の形式的な合意を経て、最高人民会議で採択する形態をとることになった。
 
そして、1970年代末まではすべての文書が二つ作成され、金日成と金正日に提出されてから、金日成が最終的決定を下したが、以後は金正日に先に報告されて通過した文書のみを金日成に報告するように変わった。
 
さらに、1980年代後半に入ると、単独決定が難しいか、金日成と直接関連した文件を除いた大部分の文書が、金正日の手で最終決定され、1990年代初めから、特に金日成が死亡した1994年以後は、形式的ながら存在した労働党中央委の政治的の会議は全く招集されない。
 
外務省が全世界から入手した各種資料は、党および閣、軍部機らと合同
金正日の直属機関である外務省に対する党の指導体系は、党中央委「組織指導部」傘下の党中央委組織部(2人常駐)と党中央委「宣伝部」(2人常駐)、国家政治保衛部(2人常駐)、人民保安省(2人常駐)の中、宣伝部の傘下に属している。
 
外務省の党委員会は、傘下に組織部と宣伝部、幹部処、直衛隊を運営しており、党委員会は直属に地域局と機能国、保障部署(支援部署)らを置いている。そして各局は、傘下に平均50人以上の党組織である「部門党」および平均50人以下の「党細胞委員会」を運営している。
 
外務省の組織は、参事室を直属に持つ外交部長(外相)を筆頭に、第1副部長、副部長(11人)、行政・組織局の順になっており、行政組織局は傘下に地域局と機能局、保障部署(支援部署)を置く。
 
地域局は、傘下に2局(中国)、3局(ロシア)、4局(旧ソ連邦国家ら)、5局(中東)、6局(東アフリカ)、7局(西アフリカ)、8局(西ヨーロッパ国家ら)、9局(中南米)、10局(東南アジア)、14局(日本)、16局(米国・カナダ)、国際機構局を置き、保障部署としては行事保障局と資料図書室、輸送処、経理、施設管理の担当部署がある。
 
特に、最も膨大な規模である機能局は、傘下に1局(方針執行局)と11局(対外宣伝局)、12局(祖国統一局)、13局(機要文書局)、15局(通信局)、17局(暗号変信局)、18局(報告文件局)、派遣局、儀礼局、文献局、条約法規局、情勢研究局、非同盟運動局、領事局、報道局、経済局、面接録編集局、迎接局、外交団総事業局を置いている。
 
外務省は、毎年12月初、A4用紙で200枚分量の「新年の対外活動方向」、または「新年の外交攻勢計画」を作成した「提議書」を金正日に報告する。
 
外務省の「提議書」報告は、各該当局から集まった外交活動成果や教訓、問題点を土台に、政策案、対策案、建議案などが総合されてから、課長と副局長、局長の決裁を経て、参事室と担当副相(次官)に提出された後、また姜錫柱第1副相(次官)と外相の決済を受けて、金正日に報告される。
 
だが、この過程で該当関連機関と完全に合意されなかった文書は、金正日に報告すらできず、だから「北韓の外交政策には、強硬、あるいは穏健勢力間の対立があり得ない。」
 
金正日への報告は、毎週1回(普通月曜日、保衛省は火曜日、人民安全省は水曜日)の、「提議書」提出の正規報告と、模写送信(ファックス)を通じての非正規報告、外務相あるいは第一副相の電話報告、毎週1回開かれる「金正日の秘密パーティー」での報告などで行われる。
 
報告される文書は、各地域局と情勢局、代表団迎接局と派遣局が、新聞とTV、代表団に対する情報収集等を通じて作成され、その内容は、主に金正日に対する国際社会の評価や「ご安泰」と関連した物資の購入、対南および対北資料と軍事関連の最新技術資料、対北支援などで構成される。
 
報告を受けた金正日の「批准」方式は、自分の意見を親筆で書いて添付して下す「親筆指示」と、名前なしに日付だけを添付する「親筆文書」、直接外務省に指示する場合などに分かれ、ひとまず「批准」された文書は、即ち「国の方針」、あるいは「政策」になって、金正日の「書記室」を通じて作成した機関へ返される。
 
そして、この全ての報告および「批准」過程に前に、外務省と最高人民会議、党、軍部、政務院などとの「合意」が行われねばならず、「合意」は、特に人民武力省と統戦部、党国際部、国家保衛省、人民保安省などの機関と主に行われている。
 
人民保安省と人民武力部などが参与する「大水被害策委員会」は、住民たちを監視し、北支援食糧などを軍へ移送
このような「合意」の手続きのため、外務省は内部に各専門分野別に、党および内閣と軍部の関連機関らが全部参加する、一種のTask Force(特別対策本部)格の「常務組(チーム)」を置く。
 
「常務組」の例としては、「核常務組」、「北・米および4者会談常務組」、「ミサイルおよび生化学武器常務組」、「大水被害(洪水)対策委員会」、「人権常務組」、「板門店軍事停戦委員会運営常務組」などがあり、金正日は、すべての機関が「提議書」報告の前に外務省と合意する体系をすでに1980年代に構築した。
 
金正日は、80年代中盤の1月1日(元旦)、「親筆指示」を通じて、「外務省は私の外務省だ」としながら、「外務省は、私の指示の他は如何なる話も聞きてはいけず、これから外務省内に軍隊のような鋼鉄の規律を一層徹底的に確立せねばならない」と主張した。
 
金正日の指示により、中央党組織指導部は外務省に対する集中指導(検閲)を通じて、その間党国際部と外務省、そして党統一戦線部と外務省の間に多くの葛藤や不合理な協議体系が存在したことを確認した後、「金正日の書記室」と外務省を直接連結する新しい外交政策体系を作成して、金正日に報告した。
 
「金正日時代」に新しく構成されたこの外交政策体系は、「金正日書記室」が党中央委政治局、秘書局、国防委を通じて外務省と直接連結する構造に再編されだが、これは「東欧圏が没落し始めた当時、党国際部の代わりに、外務省を中心に資本主義国家と実利中心の全方位外交を進めねばならなかった北側としてはやむを得ない措置だった」とも言える。
 
このような外交政策体系の再編成により新設された「常務組」は、核やミサイルなど各分野を担当して、外交政策樹立の下絵の責任を負った。
 
まず、北・米会談および核「常務組」は、1980年代末、国際原子力機構(IAEA)により北核問題が本格議論されるや外務省内に設立された。「人権常務組」は、1980年代中盤に米国や国連の委員会、非政府機構(NGO)や宗教団体らが北韓の人権状況を強力に非難したことで設けられた。
 
特に、「人権常務組」は、設立以後「一部の国際人権機構に主動的に加入して、国際社会の対北人権攻勢に(積極)対処するための」政策樹立を担当することになった。外務省の報告を受けた金正日は、「今日敵の反共和国人権策動にどう対処すべきかの問題は、国権を守護する問題と直結するので敵の人権攻勢に徹底的に備えよ」という注文を「人権常務組」に下したと伝えられた。
 
金正日の指示により、北朝鮮は、1981年国際人権規約(A+B規約)と1989年「集団殺害罪の防止と処罰に関する協力」協約に、2001年「女性差別撤廃に関する協約」等に加入して活動しているが、形式的な参加に終わっている状態だ。
 
「大水被害対策委員会」は、傘下に「国連児童基金民族委員会」、「国連人口基金民族委員会」、「世界保健機構民族委員会」、「国連開発計画民族委員会」、「国連食糧農業機構民族委員会」、その他国連傘下の専門および非専門機構担当の民族委員会らを設けており、国際社会からの各種支援を引き出す政策を樹立している。
 
「委員会」に参加する「農業省」は、洪水など自然災害を口実に、援助を受ける地域を選定し、援助に必要な各種農業資料などを確保(用意)し、政務院は、外務省や国家保衛部などを除いた各機関を管理統制する役割を担当する。
 
また、中央統計局は、援助に必要な統計資料作成などを、国家保衛部は援助と関連して北韓を訪問する外国人および北韓側の関係者に対する監視と統制を担当し、特に人民保安省は、援助地域の住民監視を責任を負い、人民武力省などは援助物資を軍部隊や特殊軍需工場などに運ぶ役割を担当して、援助食糧や物資を横取りする作業を遂行する。
 
北朝鮮解放同盟 http://ohmykorea.eelee.net 2009.02.27

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