北の権力変動に備えを

日付: 2008年10月01日 00時00分

 北朝鮮当局者は、金正日総書記の健康問題が北朝鮮の体制批判に故意に悪用されていると、韓国や米日を非難し、不快感を表している。玄鶴峰米州局副局長は9月19日、「わが国がうまくいかないことを願う悪者の詭弁だ」と金総書記病気説を強く否定した。
 しかし、玄副局長のコメントはピントが外れているのはいうまでもない。金正日総書記の健康問題で最大関心事は、北朝鮮の統治機構が正常に作用していくかどうかということにあり、朝鮮半島の平和と安定に影響が及ぶか否かということにあるからだ。核交渉や米朝正常化問題、拉致問題を眼前にして「統治力」の低下が懸念される。
 後継体制についてさまざまな観測が出されている。金正日氏から3代目の父子間権力承継があるかも変数のひとつだ。少なくとも軍内部では先軍派とパルチザン派に意見の対立があり、ポスト金正日の権力承継の正当性を主張するパルチザン派に抵抗があるという。3代目への承継は困難という見方だ。
 1997年に韓国に亡命した黄長燁元書記は「軍に総政治局があると言っても中央党の組織部(組織指導部)が基本で、中央党の組織部が中心になって話し合い、誰かを立てることになる」と党主導の体制を予測する。

核戦略現実化への警戒

 後継体制の問題のほかに、北朝鮮の核戦略の進行という懸念がある。核無能力化の検証で暗礁に乗り上げた感のある米朝関係だが、テロ支援国家リストからの除外と敵国通商条項の解除が得られないなら核無能力化措置を凍結すると北は圧力をかけている。その間、北朝鮮の核戦略が進行しはせぬかという懸念だ。米大統領選を前にして重大な問題だ。
 北朝鮮はながらく米国に対して不可侵の取り決めを結ぶ提案を行ってきた。それはつまるところ、米国との戦略的不可侵関係により朝鮮半島に対して米国が軍事介入できなくしようとする措置だ。北主導の統一戦略を遂行するうえから米朝不可浸条約北朝鮮にとってどうしても必要な装置と解釈されている。米朝不可侵は朝鮮半島南北に対する米国のアンバランスな関係定立を意味するが、北が米国と不可侵という形の安全保障を結ぶ場合、当然韓国もそれに釣り合う新たな安全保障措置を更新することになる。この問題は一国主義で考えてよいものではない。朝鮮半島全体のバランスが要求される。
 北朝鮮の核戦略が米朝不可侵を目標とするものなら、不可侵関係達成後の核兵器と核の軍事利用の排除、核エネルギーの平和利用という一点で南北が実効性ある合意を達成し、国際合意と一体化して核の軍事利用を封印することが必要だろう。

核・体制問題の南北協議を

 北朝鮮の異変に対してどう備えるべきか。北でいかなる権力体制が動き出すにせよ、なにより急がれるのは後継体制との対話準備であろう。南北関係の中長期的なソフトランディングのためにも必要である。北朝鮮核の平和的解決には韓国が中心的に関与するほかなく、安定した南北関係のなかで核エネルギーの平和利用のための南北核協力へ転換させる必要がある。核の南北共同管理によって朝鮮半島の平和保障が可能になるようにすべきだ。食糧危機は南北間の生産協力によって十分避けられる問題だ。経済協力と不可分の関係にある開放の問題は、市場経済を中心とする経済システムとその根底となる所有制の選択の問題につながる。こうした経済体制問題も率直に南北間で協議できる環境をつくっていくべきだ。
 北朝鮮と友好同盟を結ぶ中国が韓国と戦略的パートナーシップ関係を結んだことも、北朝鮮の権力変動との関係で大きな問題をはらんでいる。北の体制が崩壊するような場合、友好同盟を結ぶ中国が北朝鮮に介入を行うことに警戒しなければならない。韓国は中国が北朝鮮地域を「占拠」するような事態に対しても対策を急ぐべきだ。
 北の体制危機に対する韓国の備えは、核と体制問題に関する率直な協議の準備から始まる。


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