医師が「推理」してみた金正日の健康状態は?

日付: 2008年10月01日 00時00分

 

ゴ・ズミン(医者)

 

 

この頃相次いで金正日国防委員長の健康に関するニュースが伝えられています。当初は、公式行事に姿を見せないとして臥病説が流れて、後は各種媒体で金委員長が脳卒中(中風)にかかったことを確認する具体的な報道が出ました。 
そして、最近また中国の軍医官らが北朝鮮へまで行って、金委員長を手術し、現在はリハビリ治療中だそうです。このような一連の報道を見ながら、金正日の健康状態がどうなのか、医師として心当たりがあって、話をしてみようと思います。
 
師は推理が職業
私が前、わが国の最初の宇宙人として記録された李素妍氏の健康状態に関して推理してみた文を書いたことがあります。私の意図とおりそのまま興味で読まれた方もいましたが、コメントを通じて、医師が推理とは何かと叱った方もいました。ところで、このような方々に申し上げたいことは、医師という職業自体は推理がだいぶ重要な比重を占めるということです。私がいう推理というのは、単に創意的な想像力を発揮するということだけでなく、既存のデータを総合し現象を見ながら、基底の原因を分析する作業をいいます。
患者たちは多様な疾患の結果である「症状」を持って医者の所にくるが、医師はどんな原因がこのような症状を招いたのかを帰納的に遡る思考の過程を経て診断に到達することになります。これは、あたかも犯罪の結果である「現場」を見て、犯人がどのように犯行を犯したのか復碁(逆に状況を辿ってみること=編集者 注)する刑事の思考過程と似てきます。ここで、証拠を集める能力と現象を分析する能力の他にも、既存の知られている知識をすべて動員してこそ最善の推理が可能になるということは、医師や刑事が、推理する能力と医学や犯罪学的知識を釣り合って利用できるべきだということを見せてくれます。
この頃人気の高い米国のCSIのようなドラマを見ても、医学的な知識が実際に犯罪を分析し、犯人を追跡するのに決定的な端緒を提供するのを見ると、医学的推理と犯罪の推理とは非常に近い関係だという気がします。ところで、歴史的にもこのような犯罪学と医学の関係が、早くから小説でもよく表現されたことがあります。皆さんがよくご存知の推理小説の古典である名探偵シャーロック・ホームズを見れば、いちおうシャーロック・ホームズ自身が医学に相当の識見を持っていたし、これに加えて、同僚のワトソン博士がまさに医師でした。そして、シャーロック・ホームズの全シリーズを通じて、何と60%以上で神経学的な兆候や診断名が言及されていたという話を読んだことがあります。
 
医学的識見が高かったシャロックムズと作家のコナン・ドイル
このような背景には、恐らく彼自身が医学徒として推理の夢を育て、医者になってからは神経疾患に対する論文まで書き、シャーロック・ホームズのシリーズを盛んに書いた時は眼科医師として活動した、シャーロック・ホームズの作家のコナン・ドイル卿の関心が反映されたものと見えます。当時の医学において診断の過程で最も重要だったのはまさに観察と推理でした。
▲シャロックムズとワトソン博士
 
今のように体の中を詳しく覗いて見ることのできる内視鏡やCT、MRIがなかった時期は、患者の血色、体重、歩き方、履き物の踵のすりへった程度、身体から漂う臭いまでも、診断に重要な端緒になりました。今の医学教科書に出てくる数多くの兆候と症状に対する記述は、この時期(20世紀初期)にすでに全部なされたことが多いです。現代になっては、手軽な診断法があまりにも多いせいなのか、このような観察の重要性が大いに退色した感がしますが、まだ、現代の医学教育で診断学は最も難しくて興味深い科目です。
本論に戻って、金正日委員長が腹部肥満があるという事実は私たちがすでに知っているところであり、事実上、欲しいものは何でも十分食べられるはずだとのことから、代表的な成人病である糖尿、高血圧、高脂血症などを持っている確率は充分です。それで、言論の報道とおり脳卒中が起きたということも十分に納得の行く件です。
 
卒中に外科者がなぜ必要だったのか
ところで、私が気になったのは、なぜ中国医者たちが手術のために北朝鮮に行ったのか、ということです。ニュースの記事をそのまま無批判的に読むと、脳卒中が生じ、手術を受けたということですが、医学的に見ると、これが何かつじつまが合わない話になります。
「金正日、四肢に障碍…相期間の養およびリハビリが必要」 -共同通信
「これによれば、金委員長が卒中を起こしたのは、先月の14日で、北朝鮮は直ちに中師の派遣を要請し、これによって中人民解放軍の5人が北朝鮮に急派され、金委員長にする手術を執刀した。手術は成功的に終わり、手術後の過も良好だが、まだ金委員長は四肢に障碍がっている、とこの消息筋らは話した。」
ご存知のように、脳卒中には、脳血管が詰まって脳が損傷する脳梗塞があり、脳血管がさく烈して脳が損傷する脳出血があります。脳卒中と手術が、あまり釣り合わない理由は、脳梗塞は手術を要する疾患ではないため発病後に外科医者の役割がきわめて制限的な疾患であり、脳出血は手術しても見込みがあまりない場合が多いです。したがって、最近のニュース通り、手術受けて急激に回復がうまくいっているということがありふれたことでないので、中国医者たちが北朝鮮でどのような「神の手」の役割をしたのか気になりました。
まず、脳出血を見ると、この疾患は発病一ヶ月内に死亡率が50%に達する致命的な疾患です。昔学生の時、神経外科のレジデントらが患者に説明するのを聞いたことがありますが、1/3は病院にくる前に死亡して、1/3は病院で死亡し、1/3だけが大部分障碍を持って生き残るといったのです。その時は、わけもなく人を怖がらせるように感じられ、今調べてみてもこの統計に若干の誇張はあるように見えものの、この疾患が怖いという事実を生き生きと説明してくれたようです。どうであれ、これで金委員長が脳出血である可能性は高くはありません。言い換えれば、脳出血は手術を受け(手術をしたという自体が出血がひどいという意味もなります)、生き残り、リハビリの治療を受けて簡単に仕事に復帰できる可能性がそんなに高くないということです。
それも、回復の可能性が高く、金委員長が経験しただろうと考えられるのがまさに脳梗塞です。前にも触れたように、脳梗塞は手術で治療する疾患ではありません。脳へ行く血管が詰まるこの疾患の場合、詰まった血管を通す方法は、血管を開ける薬を使うことです。だが、この薬も発病3時間が過ぎれば脳がすでに復帰不可能な損傷を受けた状態であるため使えません。ひょっとして手術で詰まった血管を遅れて通すのも、すでに壊れてしまった神経細胞を生かせないので意味がないだけでなく、むしろ破壊された脳組織の出血を招き、患者を危険に陥れることもあり得るので、さらに常識に合わないことです。
 
手術が先だったのか卒中が先だったのか
しかし、逆に考えてみると、話が成立ち得ます。金委員長が手術で治さねばならなかった疾患があって、中国の医者たちがこの疾患を治すために動員されたが、手術の過程で脳梗塞が生じたというのがまさに私の推論です。脳梗塞が起きる原因は色々ありますが、糖尿、高血圧、高脂血症に喫煙と飲酒を好む人なら、脳に供給される血液を運ぶ頚動脈(喉の血管)に、動脈硬化症が生じた可能性が高く(他の言葉では粥状腫とも言います)、この粥状腫は、程度によっては手術で矯正すべき場合があります。しかし、この手術の危険度が相当大きいため一国の指導者としては軽く受けるほどの手術ではありません。そうするうちに、とうてい放置できない状況まで悪化したか、非常に弱い中風がちょっときたため、危機感を感じ急に手術をすることになったと思います。
 
▲ 2000年の南北頂上談の時の姿(左側)と7年後のわった姿、この時も金委員長の健康異常が流れた。[日報]
 
この手術は、死亡率が最高1.8%にまでなっており、手術によって中風がくる確率も5%にまでなります。つまり、中風を予防するための手術なのに、手術自体が中風を起こし得るということです。ところで、この手術の副作用である中風の確率は、なにしろ高難度の手術であるので、外科医者の熟練度や技術により大きな差があります。
私たちがすでに医学ドラマとして面白く視聴したことのある「ニューハート」を考えてみて、一人の立派な外科医が誕生するために最も重要なことが、立派な師匠を持つことであり、また外科医自身がその手術を十分に多く経験して熟達されなければなりません。金委員長を手術した中国の軍医官らをさげすむつもりではないが、彼らがこのような手術において世界的な水準ではないではないかというのが私の推察です。
 
昔、わが国の胸部外科医師たちが米国へ研修に行って覚えてきたこと中に、このようなことがありました。1970-80年代までにも、わが国で心臓手術というのは、先天性心臓疾患を持って生まれた赤ん坊らの心臓を治してあげることがほぼ全部でした。ところで、韓国医者たちが米国に行ってみると、心筋梗塞を予防するために冠状動脈の迂迴路術という手術を見ることになります。暮らすのが大変だった当時のわが国では、このような先進国型疾患があまりなかったため、もちろん見て習うべきことが多かったはずです。そして、今は情勢が完全に変わり、韓国の胸部外科医たちも、冠状動脈の手術が主な手術に成りつつあります。
 
金正日動脈の手術を受けただろうと推測
頚動脈の手術も同様です。社会そのものがあまり西欧化されていない国では、それほど多くもなく、医師たちの注目を引く疾患でもありません。さらに現在中国の医師たちを教えた先代の医科大学の教授らがこの疾患に精通したはずがありません。また、現在の中国医師たちも多くのケースを経験することが難しかったはずです。泣き面にはちで、軍医官だったそうですが、軍医官は主に若い兵士たちや40代未満の将校が自分の患者の99%を占める人々です。いくら人口の多い中国であり、軍隊内の医療体系が韓国と違うといっても、老人性の疾患に分類されるべき頚動脈の手術に豊富な臨床経験を持った軍医官は想像し難いです。
繰り返しますが、中国の医学のレベルが低いということでなく、医者たちは自分がいつも見る疾患をよく見ることになっているという平凡な真理に立ち、この中国軍医官らが手術をし、その後脳卒中が勃発したというのは、全くおかしな推論でないということです。このようなことを考えていたところ、昨日のニュースを見たら、こういうのがありました。
 
「金正日、今年の4月から時意識失って」..日新聞
YTN |記事入力2008.09.14 07:15
これがまさに頚動脈狭窄症の症状です。脳へ行く血流が減ると、一時的に失神するようになります。そして、下のニュースでは、手術を先に受けたようになっています。
 
「金正日、中国軍5人に手術受けて」 共同通信
「一方、ハンナラ党の李喆雨議員によれば、家情報院は、去る10日の国会情報委員会に対する懸案報告の中で、『金委員長が、先月の14日、循環器系統に異常が生じ、手術を受けるなど集中治療を受けて現在多いに好したという諜報がある』と報告したことがある。」
 
すなわち、ここでいう循環器系統(心臓と血管)の異常というのが頚動脈の狭窄が生じ、手術を受けたということがまさに頚動脈手術で、合併症で脳梗塞が起きたことであり、今回復中であるのではないかというのが私の推測です。
一つ惜しいのがあるなら、皆さんもご存知の通り、韓国の血管外科は、この分野の手術において世界最高のれべるです。もし、中国でなく、われわれの外科医に助けを求めたらどうだったでしょう。そして、それに対する恩返しとして、金正日が対南宥和政策と協力政策を加速化させたらどうだったでしょうか。過ぎ去ったことに対する仮定ほど余計なこともありませんが、金正日も南側も、良い機会をのがしたという感じを消すことができませんね。
 
いずれにせよ、整理をすると、金委員長がもし脳出血があったとすれば、相当深刻な状態である可能性が高く、完全な姿で直ぐ現業に復帰する可能性は多くありません。父子の世襲が迅速に進行する可能性が高いです。もし、脳梗塞なら、車椅子に座ってもまもなく姿を現わすでしょう。一部の言論に脳出血説も出るのを見ましたが、上に紹介した報道に基づいての私の推測は、脳梗塞の方にもう少し傾きます。どの場合でも、わが民族に不安感よりは希望をあたえる方向へと事が運ばれることを期待してみます。
 
出処:http://ko.usmlelibrary.com/ブロガー=高・スミンkosumin@usmlelibrary.com
東亜ドットコム www.donga.com 2008.09.26 15:46入力

閉じる