尹錫悦大統領に対する弾劾裁判の最終弁論が行われた2月25日、大統領側の弁護団が「韓国に対し、中国政府が限界なきハイブリッド戦争『超限戦』を仕掛けている」と主張した。韓国を属国化すべく、中国がさまざまな手段を駆使して工作を展開しているというものだ。 (ソウル=李民晧)
「韓国の主権を侵奪しようと、中国は心理戦やサイバー戦、経済戦争を随時展開している。国内在住の中国人を利用して選挙に介入するほか、先進技術を盗用し、投資を口実に企業や人に対する支配力を高めようとしている。特に、親中派の政治家を抱き込み、左派による親中政府を樹立して韓国を属国化させ、第二の香港に仕立て上げようとしているのだ」
8時間にわたる最終弁論を終えた日の夜、尹大統領側の尹甲根弁護士は、上記のような談話を発表した。尹大統領も最終弁論で、中国人によって飛ばされたドローンが軍事基地や国情院、在韓米軍施設を撮影し摘発されたにもかかわらず、それを罰するための法整備が不十分であると訴えた。また、半導体や液晶ディスプレイなど、中国によって盗まれた産業技術だけでも数十兆ウォンの被害総額に達すると述べた。
弁護団は最終弁論で、中国が世界各国を相手に繰り広げているハイブリッド戦「超限戦」について、具体的な例を挙げながら説明した。つまり、全方位的にあらゆる手段を駆使して対象国を親中国家にするという狙いだ。初期の段階では潜在的な葛藤を助長させる程度に留めながらも、その後は徐々に国同士の緊張を高め、葛藤を表面化させながら紛争へとフェーズを上げていくのが目的だ。
中国による工作の具体例として弁護団は、2019年と21年にカナダで行われた総選挙に介入し、少なくとも11人以上の親中派候補者が国会議員に当選したケースを挙げた。
22年5月に行われた豪州の選挙でも、中国は豪州の鉱山権益を狙い選挙に介入したと主張した。弁護団は「こうした状況下において、韓国だけが例外であるはずがない。政治家やメディア、企業に対するハッキングが頻繁に行われている」と指摘した。
在韓中国人96万2000人
尹大統領側の車基煥弁護士は、24年現在、韓国には在韓外国人の37%を占める96万2000人の中国人が在住しており、中国による対外世論操作機関「孔子学院」の数もアジアで最も多い23カ所に達していることを挙げた。韓国は、親中世論の形成に最適な環境だということを示している。
「中国と距離を置けば経済と安全保障の安定が脅かされる、と扇動する。その工作を担っているのは(中国の)長官級の人物であり、世論戦と心理戦を駆使して韓国での親中世論を形成しようとしている」
23年、国情院に摘発された中国のPR企業は韓国国内で、30以上の偽メディアサイトを開設していた。サイト内では、韓日関係の悪化や韓米同盟の棄損を狙い、福島第一原発の処理水問題や防衛用ミサイル「THAAD」の配備などをめぐって反日・反米をあおる世論戦を展開した。
中央選挙管理委員会は先日、中国の世論操作責任者である王滬寧を称賛する動画を掲載し、物議を醸した。王は中国共産党の序列4位の権力者だ。
車弁護士は、選管委の電算システムの脆弱性と不正選挙疑惑を改めて問題視し、「今回の戒厳は、国民が監視と牽制に目を覚まし、こうした事態を阻止すべきだと訴えるために発令したもの」と主張した。
 | | 尹大統領の弁護団が公開した選管委の動画「王滬寧編」のキャプチャー |