2021年公開の『心の傷を癒すということ 劇場版』を契機に、表情豊かな港町・神戸から世界へ響く映像作品を届けようと立ち上げられた「ミナトスタジオ」の船出となる作品。主人公・灯の苦しみや葛藤、成長を見事に演じ切ったのは今作が初の主演映画となる富田望生。監督は、20年以上にわたり、NHKの演出家として「カムカムエヴリバディ」など数々のドラマを手掛けてきた安達もじり。神戸で暮らす人びとへの膨大かつ綿密な取材を基に、震災後の日常をリアルに描くオリジナルストーリーを作り上げた。
1995年1月17日の震災で多くの家屋が倒壊・焼失し、荒廃した神戸市長田区。かつてそこに暮らしていた在日コリアン家族のもとに生まれた灯(富田望生)。在日の自覚は薄く、被災の記憶もない灯は、父(甲本雅裕)や母(麻生祐未)から時折こぼれる家族の歴史や震災当時の話が遠いものに感じられ、どこか孤独と苛立ちを募らせている。父は家族との衝突が絶えず、家にはいつも冷たい空気が流れていた。
震災から20年が過ぎたある日、親戚の集まりで起きた口論によって、気持ちがたかぶり「全部しんどい」と吐き出す灯。そして、姉・美悠(伊藤万理華)が持ち出した日本国籍への帰化をめぐり、家族はさらにバラバラになっていく。
一方で建物やインフラの復興は着実に進み、被災地の多くの人たちが日常生活を取り戻して行き、当事者以外の日本社会における記憶と関心はどんどん薄れていく。そのような時間の経過にもかかわらず「答えのない問い」に悩み苦しみながら、心の内を明かすことも語る場も持たない隣人もいた。本作では、さまざまな人生を取りあげながら過酷な災害を体験した人々の痛みや苦しみを誠実に再現している。
30年という歳月が流れた今も、心の奥底に残る傷を抱えながら生きて行くことを余儀なくされた人たちが多くいるという現実に向き合った作品といえる。
公開=1月17日(金)、新宿ピカデリーほか全国順次公開中。
公式HP=https://www.minatomo117.jp/
震災後の「答えのない問い」に家族で向き合う©Minato Studio 2025 |