電気自動車(EV)大手の中国BYDは、来年1月から韓国市場に本格参入する。韓国側は、現代自動車と同社傘下の起亜が迎え撃つ形になる。先行する米テスラと、コスト競争力を武器に世界シェアで拮抗しているBYDだが、8月に発生したEVの火災事故の煽りを受けて消費者の不安が高まり、販売が足踏みするようになった。市場関係者の間でも、EV市場の成長を不安視する声が挙がっている。
BYDが本格参入
BYDは2016年から韓国でバス、トラックなどの商用車を販売してきた。来年1月からは乗用車で本格参入する。投入するのは、EVセダン「SEAL(シール)」、スポーツ用多目的車(SUV)「ATTO3(アットスリー)」、コンパクトEV「DOLPHIN(ドルフィン)」など。先行して販売した日本では、300万円台半ばから500万円台前半であり、韓国でも同水準の価格帯になるとみられている。
世界レベルでの温室効果ガス削減のためのエコカー推進の流れと、韓国政府の購入補助金政策もあり、EVは順調に販売を伸ばしてきた。しかしここへ来て、内燃機関(ガソリン、ディーゼル)車より割高な価格と、充電インフラの整備の遅れなどが問題視され、普及は踊り場に来ている。韓国国内ではさらにEVの火災事故によって、安全性への不安から敬遠する動きが出てきた。
EV火災は8月1日に仁川市内のマンション地下駐車場で発生。煙を吸い込むなどした住民ら約20人が負傷し、100台以上の車両が燃えるといった損傷を負った。
火災の原因となったのはドイツのメルセデス・ベンツの「EQE」。同車種はCATLとファラシス・エナジーのいずれも中国メーカー製バッテリーを採用している。事故を起こした車両が搭載していたのはファラシス・エナジー製だった。
韓国以外でも火災
これと前後して韓国以外でもバッテリーの不具合が頻発している。同月、ポルトガルの首都リスボンでも、空港近くのレンタカー会社の駐車場で火災が発生し、200台以上が全焼した。火元はテスラ車とみられている。英国ではロンドンのEVバスで火災が発生。直後にBYDバッテリーを搭載したEVバス約2000台をリコールした。9月2日にはドイツBMWがEV「ミニ・クーパーSE」について、バッテリーの不具合により火災につながる恐れがあることから、約14万台をリコールした。搭載していたのはCATL製とみられる。
EV用に搭載されているリチウムイオン・バッテリーには、過充電や過放電、大きな衝撃が加わった場合に発火リスクが高いという問題点がある。
敬遠の動き相次ぐ
相次ぐ発火事故が影響したのか、韓国輸入自動車協会(KAIDA)調べによる9月の輸入乗用車の新規登録台数のうち、EVは前年同月比17・6%減の2753台だった。韓国中古車プラットフォーム「チョッチャ」が8月のEV買取データを分析したところ、発火事故前の7月と比べ、オンラインオークションに出品されたEVの台数が倍増した。
韓国消費者調査会社「コンシューマーインサイト」が、仁川事故直後の9月11~16日に実施した「中国ブランドEVの購入意向」によると、中国ブランドEVを購入する意志がある人は9%しかいなかった。購入価格が韓国ブランドEVと比較して、90~100%であれば8%、70~80%であれば29%、50~60%であれば61%と、価格が下がるほど購入意欲が増すという結果が得られた。一方、「いくら安くても購入しない」は39%だった。
販売不振を予測
韓国自動車モビリティ産業協会(KAMA)によると、2023年のEVの国内販売台数は前年比0・1%増の15万8009台で前年並みにとどまった。KAMAは24年のEV販売について、「充電インフラや安全上の問題が解消された後に購入しようとする傾向が強まり、国内販売は振るわない」と予測している。
ジェトロ(日本貿易振興機構)ソウル事務所の橋爪直輝氏は、24年の韓国自動車産業の見通しについて「高金利・物価高に伴う国内外市場の不透明性や、各国のEV補助金の縮小傾向など、懸念材料が多い。国内外の複合的な動向を注意深く観察する必要がありそうだ」としている。
中国BYDのEVセダン「SEAL」 |