シンガポール発の日系
スタートアップ急成長
2016年4月に日本人2人がシンガポールで起業し、デジタルマーケティング分野で急成長しているスタートアップ企業がある。AnyMind Group(エニーマインドグループ)社である。
同社は創業直後からタイを皮切りにインドネシア、ベトナム、台湾、カンボジア、日本、中国、香港に相次いで現地法人を設立、アジアを中心に現地法人網を広げた。一方、ジャフコを引受先とする第三者割当増資で1450万米ドルを調達したのをはじめ、LINE、未来創生ファンドから1340万ドルの投資を受け、タイ、インド、インドネシア、日本などの関連事業会社を次々と買収するスピード経営で業容を広げてきた。これまでのM&A件数は8件にのぼる。
23年3月には東京証券取引所グロース市場に上場。24年8月の東証グロース市場の株価上昇率番付では、株価上昇率8位(23年12月比54%上昇)となり、時価総額841億円を記録するなど、躍進を続けている。
このエニーマインド社が24年9月に韓国のクリエイターマネジメント企業SANDBOX NETWORK(サンドボックスネットワーク)社とグローバル・マーケティングに関する覚書を締結、インフルエンサーを起用したインフルエンサーマーケティングなどで協業する。
サンドボックスネットワーク社は、韓国・ソウルを拠点に、ユーチューバーやインフルエンサーなどのクリエイターを育成、管理しており、所属するクリエイターは300人を超える。他方、アジアを中心に15カ国・地域に拠点を構えるエニーマインド社は、支援するクリエイターが2600人を超え、24年6月末時点で世界45以上の国・地域から79万人以上のインフルエンサーへのアクセスが可能なプラットフォームを構築、提供している。今回の両社の提携により、インフルエンサーマーケティングを軸にグローバル企業のデジタルマーケティング活動を支援するツールとソリューションを提供する。
韓国ゲーム開発クリエ
イターの海外進出支援
エニーマインド社は23年11月、韓国に現地法人を設立、韓国での事業展開にも拍車がかかる。韓国コンテンツ産業振興院(KOCCA)が推進する「グローバルゲームビジネスサポートプロジェクト(GSP)」のサポーターに選出され、韓国のゲーム開発クリエイターを支援する取り組みが始まった。
GSPは韓国のゲーム開発者が国際市場で成功するために必要なツールや資金を提供する政府主導のプロジェクトであり、総額5000万ドルを超える予算を有しているという。
エニーマインド社はGSPを通して、韓国のゲーム開発者に対して、インフルエンサーマーケティングやモバイルマーケティングを推進するためのクロスボーダーマーケティングのツールとソリューションを提供し、グローバル市場で成長するための技術及び営業支援を行う。
他に同社では、EC(電子商取引)支援の新しいシステムとして、SNSなどのライブ配信で商品を販売する「ライブコマース」に人工知能(AI)モデル(販売要員)を活用するAIライブコマースのシステムを開発した。タイで飲料水「エビアン」を販売する現地企業が先行導入するが、これはAI時代のデジタルマーケティングの先陣を切る試みだ。
シンガポール生まれの日系スタートアップと韓国のクリエイターマネジメント会社がタイアップして、AI時代の次世代ECやデジタルマーケティングのイノベーションに挑む韓日協業の取り組み。その動向が注目される。
篠崎 晃
日刊工業新聞社で新聞記者、雑誌編集者、編集長を歴任。現在は一般社団法人日本企業危機管理協会環境部会長・企業文化広報誌「つながり」編集委員。「松下電器の『破壊と創造』超・製造業への挑戦」(実業之日本社)ほか著書多数。
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