訳者あとがきで明かされている通り、本書の原題は『Park Chung Hee and Modern Korea : The Roots of Militarism』で、日本語版の書名とは主題と副題が逆になっている。
訳者による提案を著者が受け入れた上での変更であったというのが頷けるように、本書は朴正煕大統領が青年時代を過ごした日本陸軍での経験に基づいて、その後の韓国の「近代化」を図った〝一代記〟のように読まれてしまうには惜しい内容となっている。
第2章まで読み進めても、朴大統領は登場しない。大韓帝国初期から朝鮮王朝時代にまで遡り、「軍事化」のルーツとすべき役職があったことや、当時の社会で発展の芽が摘まれてしまった背景など、漢文資料を駆使して著者は丁寧に分析している。
朴大統領をサイドストーリーの主人公に据え〝軍事〟を主題に置き換えた、新たな韓国近代史の良書として日本で広く読まれることを期待する。ハーバード大学で韓国史講座の教授を務めた著者による、深い知識と洞察に裏打ちされた本書は、読者に新たな視点を与えてくれるだろう。
慶應義塾大学出版会刊
定価=7920円(税込)
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