万葉集は皇統が万代に続くよう祈願する古代の歌集と思われる。郷歌は、人々が歌うか、書いて壁や大門などに貼っておくだけでも神様が感動して願い事をかなえて下さるという歌だ。万葉集の歌も郷歌であるため、願い事をかなえてくれる魔性の歌だった。
万葉の歌人たちは、一曲の歌でも万葉の神様を感動させられるが、大勢の人々が歌うか数多くの作品を本にまとめれば、万葉の神様をもっと感動させることができると信じた。その時代、何者かに対し一生懸命の念願があった。その念願をなすためには、恐るべき力が必要だった。それで多くの歌(郷歌)をまとめ一つにそろえることにした。
万葉集を最初に編纂したのは誰だったのだろうか。編纂者も、飛鳥川の濃い霧の中でちらつく影のように定かではない。その人物はどのような念願を持っていたのだろう。万葉集1番歌を通じて確かめてみる。この歌の作者は誰で、なぜ作り、編纂者はなぜこの歌を1番目に選んだのだろうか。
籠 毛與 美
籠 母乳布久思 毛與 美
夫 君 志 持
此 岳尒 菜 採 須兒家吉 閑
名告紗 根虛 見
津 山 跡乃 國 者押奈 戸 手
吾 許曾 居 師 吉
名 倍手 吾 己曾座
我 許曾座 告 目家 呼 毛 名 雄母
これまでは次のように解釈されてきた。
篭もよ み篭持ち 堀串もよ み堀串持ち この丘に 菜摘ます子 家聞かな 告らさね そらみつ 大和の国は おしなべて 我れこそ居れ しきなべて 我れこそ座せ 我れこそば 告らめ 家をも名をも
(篭も美しい篭を持ち、堀串も美しい堀串を持ち、この丘で菜摘みをしている娘よ。どこの家の娘か聞きたい。教えておくれ。この大和の国はすべて私が従え、支配しているのだ。私こそ明かそう、家柄も名前も)
大いに間違った解釈だった。郷歌製作法をもって1番歌の本当の姿をお見せしよう。読者の皆さんは、千年ぶりの解読を通して、国書と言われる万葉集で、どんでん返しの実体に向かうことになる。鳥肌が立つような快感を味わってほしい。
篭いっぱいになるように「涙歌」を作り、雄略天皇の生前の功績を美しくまとめろ。篭がいっぱいになるまで「涙歌」を作り、母に乳をねだるこどものように長いこと悲しげに泣き、天皇の功績を美しくまとめろ。働き者たちは、天皇の功績を記した「涙歌」を取りまとめろ。大きな山に出かけ、生前の功績を根こそぎ掘り出し美しくまとめろ。天皇の功績を残さず調べ、絹のように美しく見えるようにしろ。あの世への渡船場へ向かう山道に、国中の民が出て悲しく泣け。我々は彼を師とすべし。彼の功績を美しくまとめた歌を作り、彼を師とすべし。
ひたすら彼の功績を調べ、この世を去る天皇を哀しく呼び、美しくまとめた功績を知らすべし。
どんでん返しの実体に向かう快感 万葉集1番歌
<続く> |