大来皇女(大伯皇女・おおくのひめみこ)は弟の墓を訪ねた。大津皇子は二上山雄岳に埋葬されていた。弟の墓を訪ねたとき作った皇女の歌が二つ伝わる。まずは165番歌を紹介しよう。
宇都 曽 見乃
人尓 有 吾 哉 従
明日 者 二上山乎
弟 世 登 吾 将 見
(弟の墓がある所が)原からも見えるわね、(遠くからも)見えるわね。
人がおり私に付いている。
朝日が昇るわ二上山に
弟が宙に浮かび私を将来見よう。
今までの解釈はこうだ。
うつそみの 人にある我れや 明日よりは 二上山を 弟背と我が見む
(この世の人である私は、明日から二上山を弟と思って眺めよう)
165番歌は大来皇女が二上山に埋葬された弟・大津皇子の墓を訪れたときに作った作品だ。間もなく弟に会うというこころ騒ぎが感じられる。大津皇子の墓がある二上山の雄岳は、葛城連峰の北端にある。彼女はぜいぜい山を登りながら、昇る太陽を弟だと思った。弟が(太陽のように)浮かび自分を見るはずと語る。
句別に解読しよう。
宇都 曽 見乃 (弟の墓のある所が)原からも見えるわね。(遠くからも)見えるわね。
宇は広い原だ。原を歩いているとき遠くに弟の墓があるという峰が見えた。
人尓 有 吾 哉 従 人がおり私に付いている。
誰かが皇女に付き、案内している。皇子の墓の場所を知る人に案内されたはずだった。皇女は険しい山道を馬の上で揉まれながら登っていた。
明日 者 二上山乎 朝日が昇るわ二上山に
皇女と従者の二人が明け方に山を登っているとき、朝日が昇ってきた。
弟 世 登 吾 将 見 弟が宙に浮かび 私を将来見よう。
弟を太陽に見立てている。弟が、自分が来るのを見るはずという。弟が自分を待っているはずと思っている。
大津皇子は何も言わなかった。謀反事件の真実は何だったのか 万葉集165・166番歌<続く> |