尹錫悦大統領は19日、「人口国家非常事態宣言」を表明し、国が総力を挙げて対策に乗り出すことを明らかにした。韓国の少子化問題が非常事態を宣言するほど深刻な状況に置かれていることに他ならない。出生率の回復に向けては、新たに独身税(またはシングル税)を設け、子どもがいる既婚世帯に対する税制上の恩恵を強化する政策の導入などが浮上している。
(ソウル=李民晧)
韓国における昨年の合計特殊出生率(1人の女性が一生の間に産む子どもの人数)は0・72人で、前年の0・78人より低下した。2021年時点で経済開発協力機構(OECD)に加盟している38カ国のうち、合計出生率が1人に満たない国は韓国のみだ。現状のままでいくと、今年の出生率は0・6人台という前代未聞の数字となる可能性が高い。
低出産高齢社会委員会の周亨煥副委員長は「0~4歳の人口が北韓より少なくなったのは解放後初めて」と述べた。21年時点で、0~4歳の人口は韓国が165万人、北韓が170万人だ。一方、韓国の総人口は5175万人で、北韓(2624万人)の約2倍。
経済活動人口の激減により国の消滅が危ぶまれる中、政府は過去の少子化対策について「焼け石に水だった」と評した。
政府は少子化問題の専門部署として「人口戦略企画部」を新設し、人口部長官が社会副総理を兼任することで、少子化・高齢化・移民政策を一元管理できるプランを策定する方針を固めた。
また、仕事と家庭の両立、育児、住居の3項目を重点的に支援することをベースに、男性の育児休暇取得率の向上と育児休暇中の給与引き上げ、新生児のいる世帯を対象とした住宅提供などの福祉制度を拡大させる方針だ。
しかし、労働者数ベースで企業の80%以上が中小零細である韓国の現状を踏まえると、男性の育児休暇取得は厳しい現実がある。
シングルが住みやすい国
少子化対策として06年から現在までに政府が費やした予算は380兆ウォンにも上る。それにもかかわらず、事態は深刻化する一方だ。
複数ある要因のひとつとして、韓国は「シングルやDINKSが住みやすい国」であることが挙げられる。LG経済研究院が少子化の解決策として「独身税(またはシングル税)」の創設を提案したが、まだ法制化にはいたっていない。直接税を新設する場合、公平性の問題や階層化を引き起こし、税金への不信を招く可能性があるからだ。また、政治家としても集票効果の薄い政策である。
税制面において、韓国はOECD加盟38カ国のうち、シングル(未婚労働者)と既婚労働者間の税負担格差が最も小さい国に属している。22年現在における所得税の実効税率を比較すると、独身と既婚者の実効税率の格差は平均10・5%だが、韓国は4・2%に過ぎない。つまり、独身者が既婚者より4・2%多く税金を払っていることになる。
韓国より2倍以上出生率の高い米国(11・5%)、フランス(10・7%)、ドイツ(17・9%)はもちろん、隣国の日本(6・0%)よりも低い。最近、日本は少子化対策の財源を確保するため、全国民に1人当たり500円の少子化税を導入することを明らかにしたが、韓国ではまだそのような議論にも至っていない。
シングルが急増しているが、政治家も政府もこれに対する議論は先送りにしている。しかし、少子化を解決するためには財源の確保が必須で、「増税」のカードを切る時期もじわりと迫ってきている。
このまま放置すれば、韓国は2050年の経済成長率が0%、70年の人口は4000万人以下に急減するだろう。
| | 19日、少子高齢社会委員会会議で発言する尹大統領(写真=大統領室)
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