幼少の頃を過ごした小さな町と、家族との記憶、現在にも色濃い影を落としている政治的事件。
印象深く描かれながら”消えていく女性たち”も多く登場する。物語に彩りを添えながらも、核心に触れる描写とは無縁の場合もあり、著者ソン・ボミの小説の真骨頂ともされている。
本作で最も重要な登場人物は、主人公「私」とその母親。物語は母親が胆嚢ガンで亡くなるところから始まる。時間軸を何度も行き来しながら、幼少の頃の「私」の記憶と、現在の「私」の抱える葛藤から、物語の全体を通じて母子の対話が描かれ続ける。
広州にある物語の舞台”小さな町”は表題ともなっているように、重要であるのは言わずもがなだ。過保護だった母親の行動の全ては、クライマックスで父親から明かされる真実によって一直線に結ばれる。
一方で、明かされないままの謎も本作で多く残されるが、現代に生きる多くの人びとが体験してきた子どもの頃の思い出は、郷愁を誘う懐かしさとともに本作の魅力の一つだろう。
書肆侃侃房刊
定価=1980円(税込)
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