俗に嘘八百・嘘八（嘘パチ）・嘘の三八という日本語がある。『日本語大辞典』には、「うそっぱち」は”全くの嘘”とある。とかく日本語で八の数字がつくと大体が真実を現していない。物事を大きく表現する言葉として使われる。
『季刊三千里』誌の第３号に、金石範は「済州島４・３事件武装蜂起について」を寄稿しているが、その中で以下のように叙述している。
「ゲリラが完全に無くなるまで約８　年かかりますが、しかし大体１年で　大勢が決まり、４９年の後半に入ると　決定的な壊滅の時期に入る。ほとん　ど１年足らずのあいだに８万人近い　人間が死んで行った」
当時の済州島の人口は２０万前後です。８万人も殺されたとなれば全島民の４割という数字です。驚くべき殺戮数になる。ガザに侵攻したイスラエル軍をはるかに抜く数字になる。そうだ、これは「うそっぱち」の八だ、８万人も殺された筈がないと気付く。大げさに言うときの八だと推察し、当時の記録を紐解くと以下のように出ている。
＊
当時の記録とは、日本語で記述された「済州島の現況」というレポートである。そのレポートに以下の数字が記載されていた。
「死者は２万７７１９人、負傷者は　１０４４人、行方不明者は３８人、全　焼家屋は３万９２８５戸、羅災民は　７万８５３４人、疎開家屋は２６３　９戸、疎開人員は１万３１９８人」
以上の記録は１９５０年５月１６日現在とあった。死者数の２万７７１９人は決して少ない数ではない。島民の約１５％が亡くなっている。金石範が殺戮数を８万人だと表現して多さを強調したのでしょう。だが８万人でなく、３万人以下である。
では、なぜ島民の１５％も殺戮されたのであろうか？　それは国際共産主義運動の一環としての武装蜂起が行われたからである。武装蜂起はマルクス・エンゲルス以来、共産主義者にとってもっとも強く主張する暴力革命の主要な手段である。再度レポート「済州島の現況」を引用する。
「全島民のほとんど全部が食に飢え、　経済的に安定しえない点に共産主義　のつけ入る穴があるわけであり、ゲ　リラ部隊も組織化し対馬を通じて日　本に潜入するオルグも大部分本島か　ら派遣されていることなど周知の事　実であり、ここに済州島当面の重要　性が見出されるといいえよう」
４・３事件以前、済州島は日本の革命も担う動きをしている。その重要性ゆえに、後になって『実業の世界』誌（７４年１２月刊）の「韓国特集」のなかで、４８年４月３日の項目に「済州島で共産分子武装暴動（４・３事件）」と特筆されている。
＊
当時の東アジアの政治状況、米ソ冷戦の始まりにおいて、済州島は重要な位置を占めていた。南労党の指導者であった朴甲東は、韓国における共産革命のために済州島の南労党党員を日本へ潜入させたと述べたが、それだけの使命ではなかったのだ。８０年代だったか、日本に潜入した済州島南労党党員の回顧録が平壌から出版される。その中で４・３事件（武装蜂起）に連動して福島県下で暴動を起こした、と語っている。
そのことは福島県下の警察署占拠事件では、済州島武装蜂起への連帯がスローガンに出されていたと記述されている。
済州島から日本へ潜入した南労党員が日本で騒乱を起こし、米軍を牽制したことは一福島県下に限らなかった。つまり、済州島４・３武装蜂起は東アジア共産化の烽火であったのだ。それを金石範は秘している。