紆余曲折の末、遷都が終わった。
井戸王(いのへのおおきみ)という歌人が万葉集 19番歌を詠んだ。新しい都でお互いに和合しようと詠っている。
綜 麻 形 乃
林 始 乃 狹 野
榛 能 衣 尒 着 成
目 尒 都 久 和 我 勢
一本の糸から麻の服が作られる。
森は始まる、小さい野原から。
茂みが服のように野原に纏われ山になる。
長上たちが皆、長く和合し、根気強く大きな勢力をなして行こう。
これまで研究者たちはこの歌について全く別の解釈をしてきた。彼らの解釈は次の通りだ。
へそかたの はやしのさきの さのはりの きぬにつくなす めにつくわがせ
(三輪山の林の端にあるハンノキの葉がよく服に付くように、よく目につく我が君)
さて、和合をわざわざ強調することは、和合に問題が生じたことを物語る。中大兄皇子は危機に直面していた。白村江の敗北と遷都のツケは、民心離反という巨大な嵐になり、皇子に襲いかかった。秋の落ち葉が一斉に落ちるように人心が離れた。
中大兄皇子は必死に民心を収拾せねばならなかった。風の吹く琵琶湖に皇子は一人で立っていた。
次回は、持統天皇の子孫が絶えてしまうようにと呪う歌を取り上げてみたい。万葉集には驚くべき歌があふれていた。古代日本の皇室にいったい何が起こり、このような歌が宮殿の外へ漏れたのか、と私は驚いている。万葉集は新たに解読されねばならないと思う。
万葉集17番歌、燃える三輪山<了> |