昔、新羅と唐の連合軍が百済を奇襲攻撃した。 倭国の実権者だった中大兄皇子は百済に援軍を送ったが、結局撤退してしまう。この時作られたのが万葉集9番歌である。作者の額田王が「中大兄皇子は手合わせに敗れ、身を真っ二つに引き裂き生命を終えるようになさい」と祈る歌だ。研究者たちは、この歌を万葉集の中で最も難解な作品(難訓歌)だとする。
莫 囂 圓 隣 之
大 相 七 兄 爪 湯 氣
吾 瀬 子 之
射 立 爲
兼 五 可
新 何 本
研究者たちは、万葉集9番歌の前半の12文字「莫囂 圓隣之/大相七兄 爪湯氣」に過去1000年間、手をつけられずにきた。後半の13文字のみを何とか解釈しようとしているだけだ。
莫囂圓隣之 大相七兄 爪湯氣
吾が背子(せこ)が い立(た)たせりけむ 厳橿(いつかしが)本(もと)〔わが君がお立ちになっていらした橿の木の下に〕
ところが、郷歌製作法は9番歌を全く違う物語として解読する。
「騒ぐのをやめねば。円満に過ごす他人でいなければ〔莫囂圓隣之〕。中大兄が煮え返る湯のように怒りながら〔大相七兄爪湯氣〕、私の”逢瀬の男”〔吾瀬子之〕、最も愛しい男に矢を放ち殺すと叫び、立てと言う〔射立爲〕。そして5人の部将にも立てと叫ぶ〔兼五可〕。(円満に過ごすことの他に)新たに何を根本とすべきだろう〔新何本〕」
驚くべきことに、倭国の戦争指揮部では深刻な葛藤があった。中大兄皇子が自分の方針に反対する大海人皇子を弓で射て殺そうとしたという顛末だ。 作者の額田王は、大海人皇子と恋人関係にあった。 そのため「中大兄皇子と戦わずに円満に過ごせ」という歌を作ったのである。
だが、これは表の歌詞で、さらに深い狙いが隠されていた。「大相七兄」という4文字を知ってこそ、9番歌の本当の意図を捉えることができる。
「七」は「刀を振り下ろす」という意味と解釈しなければならない。東北アジアの古代文字である甲骨文字によれば、「七」は「刀を振り下ろす姿」をしている。そのため「相七」は「互いに手合わせをする」という意味になる。
大相七兄という字の形を見てほしい。中大兄皇子の「大兄」という名前を、刀で魚をさばくように切り分け、その間に「相七」という2文字を嵌め込んだ形だ。
つまり「中大兄が手合わせの末に身を真っ二つに引き裂かれ、滅びてください」ということになる。恐ろしい呪術が施されているのだ。
次は「吾瀬子」である。瀬は土が凹むところを水が流れる流路のことだ。それで瀬は水が湧き流れる、女性の性器を象徴する。それで、吾瀬子は「私の逢瀬の男」と解釈され、額田王の恋人、大海人皇子のことを指す。二人は枕を共にしてきた関係だった。
「百済救援軍はなぜ韓半島から撤退したのか」
誰も理解できなかった歌、万葉集9番歌(つづく)
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