大韓民国に自由民主主義の礎を築いた李承晩・建国大統領の若かりし日の著作『独立精神』が120年の時を経て邦訳された。出版記念パーティーには漫画家の安彦良和氏をはじめ、韓日をつなぐ新たな懸け橋となるべく人々が集まった。未来の韓日交流の深化・活性化を目指し、李承晩大統の果たした功績や意義について考える。
韓日の新たな懸け橋に
翻訳者 金永林さん
中央大学駿河台キャンパスの会場で20日、韓国の建国大統領・李承晩博士(1875~1965)が120年前に獄中で著した『独立精神』の日本語訳刊行を祝賀する、出版記念パーティーを開催した。翻訳を担当した金永林博士(文学、中央大学2020年)の知人を中心に、関係者ら50人が会場に詰めかけた。
李承晩大統領の名を冠した韓国の後援団体、延世大学李承晩研究院(梁峻模院長)、財団法人「雩南Society」(柳明桓会長)、財団法人「李承晩大統領記念財団」(金滉植理事長)、社団法人「建国理念普及会」(印輔吉会長)ほか、駐横浜韓国総領事館(金玉彩総領事)、出版元の原書房(成瀬雅人代表取締役)などから献花が届いた。
『独立精神』の原書はハングルで書かれているが、当時の綴りが特異であるため、韓国人でも容易に読めるわけではない。韓国から駆けつけた金孝善・建国理念普及会事務総長は、2008年に『独立精神』の現代韓国語版作成を担当した訳者として、祝辞で日本語訳刊行の意義を強調した。
会場は金永林さんの学友のほか、漫画家の安彦良和氏をはじめ多彩な顔ぶれとなった
■韓日をつなぐ支柱として
会場に駆けつけた来賓のうち、漫画家の安彦良和氏の存在が最も異色だった。今日でも人気の伝説的アニメシリーズの第1作である『機動戦士ガンダム』(1979~80年放映)で、キャラクターデザインと作画監督を務めた安彦氏の名前を知る人は多いだろうが、氏が明治以降の近現代史の裏側を探ろうとして多くの著作を著していることは、ガンダムファンにもあまり知られていない。
韓日との関わりでは、『月刊アフタヌーン』誌で連載された『天の血脈』(2012~16年)という作品が、日露戦争勃発の前夜を時代背景にしており、李承晩『独立精神』の執筆時期と重なっている。連載に際して、時代考証について金永林さんからの助力があったことを安彦氏は語った。なお、『天の血脈』は韓日の古代史と近代史を橋渡ししようとする意欲作で、物語は好太王碑の調査から始まる。
安彦氏は「友人と紹介を受けたが、金永林さんからは一方的に当時のことを教えてもらう立場」であるとし、「この50年間、はじめの20年はアニメに、あとの30年は漫画に力点を置いている。漫画でしか表現できないことも多く、金さんには多く助けてもらった」と謝意を伝えた。
金永林さんは元々、安彦氏の関連著作を多く読んでおり、「東洋の近代史を自分の専攻にしようと思ったきっかけをくれたのが安彦氏だった」と話した。
歓談後、再び祝辞を述べる場面では、佐藤元英・中央大学客員研究員と、日本語版『独立精神』の編集を務めた原書房の石毛力哉さんが登壇し、改めて刊行の意義について語った。また、「2・8独立宣言」を題材にしたドキュメンタリー映画の製作に携わる一般社団法人「K’sスペシャルニーズエンターテインメント」の金永悦顧問によると、李承晩『独立精神』は、その後の植民地時代の朝鮮で展開された、多くの独立運動の精神的支柱になったという。
120年の時を経て、かつての帝国から禁書扱いされた本書が、韓日交流の深化・活性化のための新たな機運をもたらす好機になることを期待したい。
『天の血脈』は古代と近代の韓日の歴史ロマンを追究した意欲作。好太王碑(広開土王碑)は中国吉林省集安市にそびえ立つ
|