今年(2024年)の1月20日、韓国の元徴用工が加害企業である日立造船に対し、勝訴していた判決に基づき、同社が裁判所に預けていた「供託金」を受け取りました。
金額は5000万ウォン(560万円)ですが、元徴用工の勝訴判決が相次ぐ中で、賠償金を加害企業から受け取るのは初めてで大きな意味があります。
これに対して、日本企業や日本政府は相変わらず1965年の日韓請求権協定で解決済みで、「極めて遺憾で、断じて受け入れられない」と述べるだけです(林官房長官)。
日本政府が犬の遠吠えの如く、遠くで「遺憾だ」と繰り返している間に、韓国では判決に基づいて賠償金が実際に支払われているのです。しかも日本企業や日本政府を被告とする裁判は次々と判決に至り、元徴用工の勝訴判決が積み重なっています。いわゆる元「徴用工」は、20万人を超えると言われています。
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被告となっている日本企業はいずれも大企業であり、国際的企業として韓国内に財産があっても差押えられれば大きな打撃です。
ところで日本政府は日韓請求権協定の第3条を持ち出しました(2019年7月19日外務大臣談話)。
この第3条とは「協定の解釈及び実施に関する両締約国間の紛争」がある場合、(1)まず外交上の経路を通じる(2)仲裁要請により3名の仲裁委員による委員会を構成し、その決定に従う、との流れになります。
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日本政府は、上記外交上の経路を申し入れ、仲裁付託を通告したのに、韓国政府は何らの行動をとらなかったのは韓国による協定違反であり、遺憾だというのです(上記外務大臣談話)。
日本政府は、最近の韓国の大法院の判決が日韓請求権協定の「完全解決」に反するとして国際法違反の状態にあり、これを韓国政府は解決する必要があるとしているのです。
しかし、日本と同じく韓国も三権分立が確立され、裁判所の判決は政府が左右できるものではないのです。従って、これは日本政府と韓国政府の両国間の「紛争」とは言えないのです。韓国政府ができるのは尹錫悦政権の第三者弁済と財団による解決案程度なのです。
いうまでもなく、日本政府自身が認めるとおり、日韓請求権協定で解決したのは韓国政府の個人に関する外交保護権だけであり、個人の請求権の存否は解決していないのです。
だからこそ65年に国会で成立した法律144号で初めて韓国人の権利を消滅させたのです(これも私が何度も指摘していることです)。
したがって、韓国の大法院が原告の元徴用工に対して個人の請求権の存在を認定したというのは、極めて論理的なのです。
日本政府が韓国政府に対して、「おたくの裁判所の判決に問題があるから」と抗議して協議をしようとしても、また仲裁申立をしても、韓国政府として受け入れるものでないのは当然なのです。
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そもそも、上記の65年法144号が問題なのです。財産権の侵害には正当な補償がなされなければならないし、公共のために用いることが条件です(憲法29条3項)。たしかに、日韓請求権協定で韓国政府は請求権について外交保護権を行使しないこととなっており、相手国(日本)がどのように国内的措置を採っても異議を述べないことになっています。
しかし、だからといって何の補償もなく韓国人の財産権を一方的に消滅させるなどあってはならないことです。法144号の憲法違反を認めない日本の裁判所こそ問題があります。
韓国での裁判だけでなく、日本においても裁判が認められるべきだと思います。 |