慰安婦問題について、これを否定する代表的人物は西岡力氏です。西岡氏は『現代コリア』の編集長も務めた韓国問題の専門家であり、北朝鮮に拉致された日本人を救出するための「救う会」の会長を務め、安倍晋三氏のブレーンとも報じられた人物です。
その西岡氏が2007年と12年に『よくわかる慰安婦問題』(草思社)と同名の「増補新版」の書籍を出版しました。
その書籍で、(1)日本軍による組織的な奴隷狩りのごとき慰安婦の強制連行(狭義の強制)と、(2)貧困による身売り等、自己の意思に反して徴用された場合も含めた広い意味の強制(広義の強制)の場合とを、意識して区別するべきであるとし、狭義の強制には証拠がないという見解を強調しています。
このような一方的な分類を行い、「狭義の強制」の証拠はないから慰安婦の強制連行はなかったとして、日本には責任がないかのように言うのです。
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反論はいろいろできますが、連行時の強制の有無よりも連行後の慰安所での強制がより重要だと思います。私が関わった裁判で、工場で働くなど有利な待遇を提示され、騙されて船に乗せられ着いたところはビルマのラングーンだったという元慰安婦原告がいました。逃げられない場所で、慰安婦としての生活を2年以上もの間にわたり強いられたのです。
このような場合は、騙されたという前提が重要です。西岡氏の言う「広義の強制」に該当するため、日本には責任がなかったといえるのでしょうか。
まして、私たちの裁判の9人の原告のうち2名は東京高裁の判決でも強制連行(狭義の強制)の認定を受けています。
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西岡氏は私について「事実を歪曲してでも日本を非難」する「反日日本人」だとか、「虚構から抜けられず詭弁でごまかし、それを利用して日本を貶めればいいと考えるのが高木健一弁護士」とまで述べたので、私は名誉棄損として裁判を提起しました。
しかし、裁判の判決では、西岡氏の記述には「多少厳しい表現が含まれ」ているが、高木について「殊更に誹謗中傷する目的」は認められないとし、しかも西岡氏の論評の前提事実が「重要な部分について真実であることの証明があったときに当たる」と不当な判断をされたのです。
私たちが慰安婦問題を含め戦後補償問題の重要性を訴え、裁判を提起した1991年12月8日の記者会見で金学順さんは歴史を動かしました。
その金学順さんのあげ足を取る先頭にいたのが西岡力氏でした。西岡氏は前記のとおり「救う会」の会長でした。その運動の中心に横田めぐみさんのお母さん、横田早紀江さんがいました。
日本人にとって、同族の方が韓国人に対するよりも情が移ります。横田めぐみさんのことを訴える横田早紀江さんが、金学順さんを凌駕したのです。
しかし、日本人のみの被害を訴え、ナショナリズムを高揚させ、他民族を攻撃しようとする社会は、私たちが望む社会ではないと思います。
また、私に対する嫌がらせもありました。私が前記の「朝まで生テレビ」(96年11月)に出演した翌日から、私の自宅には夜中の2時になると電話がかかるようになり、1年間悩まされました。電話に出て話しかけても無言で返事をしないのです。
同じ頃(96年12月3日)、私が法律事務所に出勤すると依頼者の1人が飛び込んで来て、電話がかからないというのです。調べると、誰かが私の名をかたってNTTとの電話契約を解除したことが分かりました。「本人ですか」と聞いたら「本人です」と答えたので信用したというのです。
今なら生年月日を聞いたり、かけなおしの電話をするところです。いずれにせよ間違いだと確認したのですぐ復旧してもらいました。 |