文在寅政権下で戦後最悪とも言われた韓日関係だが尹錫悦政権発足後、急速に融和ムードが広がった。昨年3月に行われた首脳会談後、両国トップによるシャトル外交が12年ぶりに再開され、さらに雪解けが進んだ。政治・経済・文化・民間などあらゆる分野で韓日交流が活発化してきている。12月には文在寅政権下では休止されていた「ハイレベル経済協議」「金融シャトル会議」が再開された。また、横浜に研究所を開設するサムスン電子に対し、日本政府が最大200億円の助成金支給を決定するなど官民一体となった取り組みも行われている。今回は急速に進んだ経済交流の動きなどを通し、今後の韓日経済交流の在り方を考える。
政府
韓国、日本の両政府は昨年12月21日、経済関係全般について包括的に話し合うハイレベル経済協議をソウルで開催した。
ハイレベル経済協議は1999年に始まり、両国の持ち回りで開催されてきた。だが、韓日関係の悪化から2016年1月に東京で開かれた14回目の協議を最後に中断。昨年3月に行われた尹錫悦大統領と岸田文雄首相の首脳会談を機に両国関係が回復したことを受け、約8年ぶり15回目の開催となった。
韓国から外交部の姜在権経済外交調整官、日本から外務省の小野啓一外務審議官が出席。加えて韓国側は企画財政部、産業通商資源部、海洋水産部、食品医薬品安全処、日本側からは経済産業省、財務省など関係官庁の関係者も参加した。
両国はサプライチェーンの分断、地政学的な競争にともなう陣営形成など変化する経済安全保障環境において価値を共有する国として互いに協力する必要性が大きいとの認識を示してきたが、今回の協議でも経済安保分野の政策協力、経済分野の実質的協力、地域・多国間協力など関心事について幅広く意見交換した。さらに新市場の開拓とサプライチェーンの安定・多角化のために2国間、および多国間レベルでの意思疎通と協力強化を確認し、重要技術や新興技術での協力を発展させていくための方策についても議論した。
特に貿易と投資が新型コロナウイルス感染拡大前の水準に急速に回復する中で、韓日の協力の潜在力を完全に発揮できるよう諸般の分野で努力していくことを申し合わせた。
小野氏は「両国は重要な隣国であり、新たな課題と技術に対する対応などパートナーとして協力できる潜在力が非常に大きいと考える」と強調した。
姜氏は「世界経済の不確実性が増大する状況で自由民主主義と自由市場経済を共有する韓国と日本の域内、グローバル、多国間での協力と役割がいつにも増して重要になった」と述べた。
半導体
トヨタ自動車がLGソリューションとのバッテリー供給契約を締結(2023年10月)するなど、韓日を代表する企業同士の協業も進んだ。
半導体分野でのさらなる企業間協力を望む声も両国からあがっている。日本は素材や製造技術、韓国は微細化の技術を有しており、両国の連携は相互補完となるからだ。現在、韓国、日本、台湾、米国で世界の半導体生産の7割を占めており、世界の趨勢を握っているといってもいい。昨年5月にソウル市内で行われた韓日首脳会談で尹錫悦大統領と岸田文雄首相は、韓国の半導体企業と日本の素材・部品・装備企業が協力して半導体のサプライチェーンを構築することで合意している。
こういった背景のなか、日本の経済産業省は昨年12月21日、サムスン電子が横浜市みなとみらい21地区に新設する先端半導体の研究開発拠点に対し、最大200億円を助成すると発表した。半導体の高性能化に必要な「パッケージ」と呼ばれる技術の研究開発を行う研究所で来年以降の投資額は400億円に上る。このうち最大200億円を日本政府が支援するというものだ。同研究所は今後、日本でおよそ100人の技術者などの採用を目指しているほか、日本の研究機関などとの共同研究も検討している。岸田文雄首相は「世界の企業から日本国内への投資に関心が集まっている」と述べ、投資拡大に期待感を示した。山中竹春横浜市長も「半導体の世界的メーカーであるサムスン電子が、半導体の最先端研究拠点として、みなとみらい21地区を選んだことを、心から歓迎する。世界的に注目されている半導体関連企業の集積につながることで横浜経済が一層発展し、持続的に成長していくことを期待する」と述べた。
韓日両国の官民が連携して行う事業が具体的な成果につながるか注目される。
金融
韓日両国の金融連携が急速に進んでいる。
昨年12月1日、金融危機の際に通貨を融通し合う通貨交換(スワップ)協定を締結した。融通枠は100億ドルで、期間は3年。両国のスワップ協定は1990年代後半、アジア通貨危機をきっかけに、韓国を支援する枠組みとしてスタートした。だが、韓日関係の悪化で2015年に失効。8年ぶりの再開となった。
次いで韓国金融委員会の金周顕委員長と日本金融庁の栗田照久長官が12月19日に政府ソウル庁舎で会談を行った。両氏は10月に東京で会談した際、韓日金融当局間のシャトル会議を7年ぶりに再開することで合意していたが、これを受けてのもの。
金氏は会談で「日本政府がデジタル転換とスタートアップ育成政策を積極的に推進したことにより、韓国企業の日本進出に対する関心が非常に高まった」として、政府系の韓国産業銀行が主管する「ネクストラウンド」などのIR行事を2024年度に日本で開催する予定だと述べた。
今回の協議では、両国を取り巻くグローバル経済・金融情勢や、両国における金融行政上の重要課題について建設的な対話が行われ、14年11月に締結した「金融監督分野の協力に関する覚書」(MoC)に「両国当局間の協力範囲を金融革新、持続可能な金融など新たな懸案として拡大する」という条項を追加改訂して署名した。
翌20日、栗田氏は李卜鉉金融監督院長と会談。栗田氏は会談後「両国当局の協力をシャトル会議がさらに促進するだろう」とし、「当局間の対話や情報共有を通して持続可能な金融や金融革新分野が活性化することを期待する」と述べた。
他の分野に比べ、金融関連の交流は遅れていたが今後、本格的に再開していくとみられる。
提言
SKグループの崔泰源会長は昨年12月4日、米ワシントン近郊で開催された経済関連会議で「韓日は互恵的関係が可能で、今後は両国主導の経済ブロック形成をすべき」との趣旨の演説を行った。同会議には韓日米の元・現官僚と有識者、シンクタンクや財界関係者などが参加した。
崔氏は同席上で韓日の経済はともに低成長に直面しており、将来的に世界経済における地位の低下もあり得ると警鐘を鳴らした。それを克服するためには、韓日が主導する「EUのような経済ブロック」を形成することが必要だと述べた。
戦後数十年間にわたって、両国の成長を後押ししてきた製造業中心の輸出は、以前のように国の経済を支えるものではなくなったとし、サプライチェーンをはじめとする経済安全保障など多くの環境の変化に適応する必要があると指摘した。他方、韓日は以前は輸出競合国であったが、現在は中国が実質的なライバルで、韓日については互恵的関係の形成が可能だとした。さらに米国経済と相互利益を生み出せば、より大きな経済ブロックに近づくと期待を示した。これまでも崔氏は、世界的な経済パラダイムの転換を乗り切るには、米国、中国、EUに次ぐ韓日主導の第4の経済ブロックが必要だと説いてきた。
崔会長は11月30日に東京大学で行われた「東京フォーラム2023」でも「韓日経済協力体を構築しよう」との趣旨の講演を行っている。
変遷
韓国と日本のこれまでの貿易関係は、日本が機械や原材料を輸出し、韓国がそれをもとに組立・加工して海外に輸出するという両国の分業体制のもとで発展を遂げてきた。その後、韓国は経済成長とともに自ら素材・部品などを製造するようになったことで世界市場での韓日の競争は激しくなった。
両国の国交が回復した1965年以降、韓国の対日輸出と対日技術導入、日本の対韓投資のいずれもが飛躍的に増加した。当時は発展途上国と先進国の関係であったが、日本との経済交流が活発化したのと同時に、韓国経済は高度成長の波に乗った。韓国は日本の工業拠点として好条件を備えており、直接投資についても、出資比率にそれほど拘わらず、韓国人の経営参加を容易にした。これにより経営のノウハウを学ぶことができ、日本が韓国に経済発展のモデルを提供したとも言える。日本側は韓国に工場を置くことで生産コストを大幅に削減できた。
この間、韓国経済の発展に日本が寄与した面は大きいが、日本市場の閉鎖性のために韓国が対日貿易赤字に苦しんだことも事実だ。韓国政府は1960年代末から、日本政府に対して貿易不均衡の是正を求めてきた。当時、韓国は貿易全体でもマイナスが続き、累積債務問題に悩まされていた。韓国政府は日本政府に対してさらなる技術協力を求めた。対日輸入を国内生産に代替し、赤字の解消を図る目的だ。日本政府はこれに対して両国の貿易は韓国の輸出拡大に貢献していることを理由に理解を求めた。日本が韓国に輸出している原材料や機械をもとに製品を製造、輸出することで、利益をあげているという主張だ。1970年代には多くの日本企業が韓国企業に対して技術移転を行ったがその結果、韓国企業の技術力が向上していった。1980年代に入ってからは貿易不均衡がさらに拡大していったことから、日本政府に対して技術協力の要求を強めた。この後、中国の台頭などで、対中貿易黒字を背景とした貿易構造の変化により、対日輸入依存度は低下した。2000年代に入り日本が機械や原材料、部品を輸出し、韓国がそれを組立・加工して米国などの第三国に輸出するという両国の水平分業体制へと移行していった(このスキームは半導体産業などに代表されるように現在も続いている)。
半面、自動車、造船、家電などの製造ノウハウを得た韓国は日本との海外での競合が激しくなり、現在は半導体、家電で日本を追い抜き、世界的な自動車販売でも日本に迫っている。
現在は水平分業への移行で協調関係が成立している。日本は電子部品や非メモリ半導体、半導体製造装置などの輸入先として重要な役割を担っている。自動車、造船、鉄鋼などの分野で競合関係にあるものの、韓国製品は日本製品の代替品としての立場を脱却し、独自のブランドを築き上げている。そのため競合分野でも両国のすみ分け傾向が進んだ。現在、半導体、電気自動車(EV)用バッテリーをはじめAI(人工知能)などの未来産業分野でも、両国にとっての競合相手は中国に代わったと言える。
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