西欧(米英)支配層の貪欲と人種的偏見、そして妄想から始まったウクライナ戦争(NATOロシア戦争)後、22カ月が経過した。西欧の敗北は明白だ。西欧に、キーウ側をこれ以上、支援する余力などない。西欧がハードパワーとソフトパワーの両方で敗れたことで、国際秩序が根底から変化している。NATOの崩壊まで視界に入るようになった時期に中東戦争が起こった。ガザで大量虐殺を犯したイスラエルはもちろん、その後見国である米国も孤立している。覇権国家・米国の神話は終焉を告げ、西欧の世界支配時代が終わる。
米国の影響力低下
各地で紛争が勃発
ウクライナ戦争によって、第2次世界大戦後の国際秩序、特にソビエト連邦解体後の米国一極体制が崩れた。小国も米国を恐れないようになった。国家として認められていなかったハマスやイエメンのフーシ派などがイスラエルと米国に宣戦布告をしても、米国は彼らを力で制圧できずにいる。この変化は、一言でいうと米国とその伝統的同盟諸国が犯した致命的ミスが招き、促進したものだ。
いずれにせよ、ウクライナ戦争は西欧が構築してきた国際秩序と、残酷で貪欲さに満ちた歴史を、世界中の人々の前に曝け出した。
ハマスとイスラエルの紛争も、西欧の自己中心主義が招いた戦争だ。目的を追求するイスラエルに振り回される米国は、イスラエルの宿主に過ぎなかったのか。バイデン大統領などのリーダーシップの下で米国の覇権が崩れるのは当然だ。
「西欧中心の国際秩序」が崩れていくのを見ながら、西欧(米国)が世界に強要してきた、いわゆる「規則基盤秩序」というものが、人種主義を隠した西欧の支配装置だったことが分かる。官僚主義とグローバリストが掌握したEUには、すでに主権国家は残っていない。ヨーロッパの強大国であるドイツも、グローバリスト勢力の脚本によって動く形だけの主権国家だ。
ウクライナ戦争は、既存の西欧中心の国際秩序を維持しようとする勢力と、これに抵抗・挑戦する勢力が激突する戦争だ。世界はすでに多極化体制に入っている。そして、現代文明の特異点と絡んで、人類が経験したことのない状況を生み出しそうだ。
中東地域における米国の影響力の喪失が目立つ。国連安全保障理事会でイスラエルとハマス間の即時の人道主義的な休戦要求を米国が拒否するや、世界が背を向けた。イスラエルによるガザの大量虐殺に対してグローバルサウスだけでなく、西欧社会でも激しい非難が噴出している。バイデン政権も選挙を控えてイスラエルを守れなくなった。米国内でも、イスラエルが米国の利益を脅かす存在だという自覚が高まった。
イエメンの武装組織フーシ派が紅海を事実上統制、イスラエルとその支持国の船舶を攻撃するや、米国はイスラエルを助けるため軍事介入を宣言、多国籍の連合海軍部隊構成を発表した。ところが、「伝統的親米国家」だったサウジアラビアとUAEが米国の要請を拒否した。サウジとUAEが空軍基地を提供しない限り、イエメンへの本格的な攻撃は不可能だ。
多国籍艦隊に米、英、カナダ、フランス、イタリア、オランダ、ノルウェー、スペイン、バーレーン、セーシェルが合流するとしたが、バーレーンとセーシェルは軍事的に意味がなく、NATO艦艇が紅海側に移動しても当分はフーシ派のドローン迎撃に集中するしかない。しかし、スペイン、フランス、イタリア、豪州は米軍の指揮体制の下での兵力の派遣、参加を拒否した。米国がミサイルでフーシ派を攻撃しても完全制圧は難しい。
昨年のエキスポ誘致競争で、ロシアを敵に回した韓国(釜山)が、サウジに大差で敗れたのは当然だ。国際政治のパラダイムの急激な変化を無視してきた韓国は、西欧の世界支配にぶら下がる歴史の反動勢力と映ってもおかしくない。
西欧との戦争の急先鋒は当然ロシアだ。プーチン大統領は、ウクライナ戦争を「新たな国際秩序の基本原則」のための戦争と規定した。プーチン大統領は、機会あるたびに、ウクライナ(キーウ側)の「非軍事化、非ナチス化、中立化」という、特殊軍事作戦の目標の堅持を確認している。共産全体主義を経て絶望を克服したロシア人たちは、個人の自由と国家主権と市場経済の大切さをどの国よりもよく分かるようになった。ゆえに西欧と戦ってこれを守り抜くはずだ。
西欧の致命的ミスと弱点
崩壊するNATOの結束
ソ連を無力化、解体した西欧は1991年、旧ユーゴスラビア連邦の解体に着手した。NATOは偽情報とテロ勢力を動員してセルビアを爆撃、主権国家であり国連の原加盟国であるユーゴ連邦を残酷に破壊、解体した。西欧(NATO)は、ユーゴ連邦の人種間の葛藤を助長し、イスラム戦士などテロリストを動員してセルビア人を虐殺するなどで、介入の大義名分を作った。
国際法を無視して「人道主義介入」という先例を作り、国際法に明示された「独立主権国家」の概念を破壊した。 以降、イラク、リビア、シリアなどの破壊にもこの方式が適用された。
ソ連邦が解体されたにもかかわらず、西欧がNATOを存続させ戦争を続けたのは、戦争による利益を期待したからだ。戦争による利益は、NATOの利益ではなく、世界を統治する単一政府を樹立、新しい秩序を構築しようとする勢力の利益のためだった。米国(西欧)を統治するグローバリスト集団は、国際的な共生や共存ではなく、自分たちの利益だけを追求してきた。
欲に目が眩んだ西欧(米英)は、致命的なミスを犯す。米国は、東西冷戦の際は覇権を争ったソ連を牽制・攻撃するため、中国をモスクワから切り離した。しかし、ロシアを解体しようと、キーウの代理軍をもってロシアを攻撃した米英は、逆にロシアと中国を密着させ戦略的に協力させた。中国を主敵と規定した米英が、ロシアと中国が手を握るようにしたから、この構図では西欧が中ロに勝つことは期待できない。米英のこの途方もない愚かなミスに、西欧同盟国と韓日は追従している。
米国はキッシンジャーとブレジンスキーが過去50年間に構築した秩序を自ら壊した。バイデン大統領は、西欧の一員になりたいと言ったロシアを敵に回し、米国の覇権に挑戦する中国とは関係改善を模索する矛盾に陥った。米国は、ウクライナ戦争の敗北を認めず、中国の現実は認めるということだ。西欧は、遠からず米国と対立するしかない。韓国は、米国の要求通りロシアを敵に回し、中国からも冷遇されている。
効率の悪い米軍
空母は巨大な標的に
軍事産業複合体を太らせるため天文学的な国防費を費やしてきた米国は、高価で効率の悪い軍隊を持つようになった。
米国は、大規模な正規戦を戦うことができない。米国の覇権維持の前提になるべき米軍は、効率的な戦力の展開と運用が不可能だ。海軍は、すでに「遠征海軍」ではなく、前方展開に基地が必要な「前進海軍」となった。東西冷戦での勝利後、米軍は基地を提供し米国の軍事作戦に協力する国家がなければ戦争ができない軍隊となった。しかし、米国の覇権に協力した親米諸国が背を向けている。
何よりも空母の時代が終わった。極超音速ミサイルやドローンなどの登場で、空母など大型艦艇は、巨大な標的となった。空母の時代が終われば、米国の海洋覇権も持続できない。米国が、イスラエルによるガザの大量虐殺を擁護したのは、米国の伝統的な同盟国や親米諸国に、米国の要求を拒否する正当な名分を与えた。
米国も戦費を制限なく使えない。すでに「ドルの覇権」が揺らいでいる状況で、米国は世界大戦でない限り、米軍が戦場に出て戦う戦争(ベトナム戦争、対テロ戦争など)は、GDPの1~2%程度を戦費に投入することが限界となった。
国民の説得が難しい「代理戦」には、GDPの0・5%の投入も難しくなる。ウクライナ戦争の場合、GDPの1%が2600億ドル(2022年)だから、すでに戦争持続(キーウ側への支援)は、米国の経済状況では限界に達したと見ても良いはずだ。
米国は、キーウ側を支援する資金が不足するや、西欧が凍結中のロシア資金3000億ドルをキーウ側に渡そうとしている。これも「規則基盤の秩序」だろうか。ロシアの報復はもちろん、世界各国が米国債など米国内の資産を売却・回収すれば、米英のこの措置も自殺行為になるだけだろう。
世界は多極化体制へ
プーチン大統領は、ウクライナ戦争を「新しい国際秩序の基本原則」のための戦争と規定した。ロシアは、西欧(米国)の限界を冷徹に看破した。ロシアは今年、BRICS通貨を出す予定だ。少なからぬ国々が金本位制などを準備している。中東諸国が、米国の覇権の基盤となってきた「ペトロドル」と米国による支配体制を拒否している。
ロシアと中国は、相互自国通貨で貿易を行う。多くの国々がその方向へ進んでいる。親米国だったUAEも、石油の取引で米ドルの使用を中止した。事実、ドルがなかった時代にも、貿易には問題がなかった。基軸通貨のドルが消えても、国別に経済力と国力を基準に一定の交換比率を定めて貿易をすれば済む。
サハラ砂漠の南のニジェールからフランス軍が撤退する。アフリカは、西欧が駆使してきた、分断と葛藤の助長を通じての植民統治と搾取を拒否する。世界人口の80%を占めるグローバルサウスは多極化体制を歓迎している。通商国家である韓国と日本が多極化体制にどう対処すべきかは自明だ。
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