ソウルと東京でオシャレな街と呼ばれる場所はいくつかあるが、そのひとつがソウルでは江南区新沙洞のカロスキルである。直訳すると「街路樹通り」で、約600メートルのメイン通りには銀杏並木が続いている。
1990年代以降に現在のようなファッション通りとなり、夏は青々と秋は黄金に染まる木々が街をハイソに彩る。並木道としてはけやきの木々が連なり、冬にはイルミネーションで有名な表参道にも例えられるが、中央分離帯を含むその広い道幅からすると、代官山や自由が丘のほうがカロスキルに近いといえまいか。洗練されたカフェやショップが多く、優雅なイメージがあるのはいずれの街にも共通する点だ。
カロスキルのメインストリートには、韓国発のファストファッションをはじめ、海外カジュアル、スポーツ、スキンケアなどの店舗や、設立者のひとりが日本人で、渋谷や青山にも店舗があるMaison Kitsuneの”Cafe Kitsune Seoul”があり、脇道には若い世代に人気のコスメ”3CE”の路面店や、韓国人デザイナーが手がけるアートブランド”YOUK SHIM WON”のショップなどがある。メイン通りと並行する西側の裏通りは、韓国語の「カロ(横)」にかけて「セロ(縦)」とした「セロスキル」と呼ばれている。
メイン通り以上に勢いを感じるのは、新進気鋭のブランドショップやブティック、カフェなどが集結しているためだ。韓国発のブランドではサングラスの”GENTLE MONSTER”、ストリート系の”ADER error”、香水の”TAMBURINS”が旗艦店を構えており、それらの注目度が高い。さらに近年ではメイン通りを挟んだ東側には「カナダラ」の順に「ナロスキル」「タロスキル」と新たな商圏が出現しており、それは地価が安い通りへと新たな店が進出するためでもある。
それとはまた異なるが、自由が丘駅周辺には女神通りやメイプル通り、美観街などと名付けられた路地があり、それぞれ個性を感じる。そのなかにはレトロな酒場が集まる通りや生活に密着した店ももちろん多いが、洒落たイメージがあるのは通りの名前も影響しているはずだ。
フランスのファッション誌から命名されたマリ・クレール通りもそのひとつだが、並行する九品仏川緑道の中央には街路樹やベンチが並び、フェスの時には屋外でワインを飲む人の姿も目にとまる。この緑道のハイソな印象はカロスキルにも似ているが、自由が丘には一大ストリートが存在するわけではなく、その点では洋館が多くエキゾチックなメイン通りのある代官山に近いともいえる。また自由が丘はスイーツの街としてのイメージも強い。
代官山にも韓国のトレンドをおさえたカフェが出店してはいたが、自由が丘にはそれが芽生えつつある。2020年秋と翌年春には駅前ロータリーの貸店舗で「韓国フェスティバル」が開催されたのち、22年6月には韓国餅や現代菓子を扱う”ZENDAMA Sweets”が開店。同年7月にはスイーツのテーマパークを掲げる”自由が丘スイーツフォレスト(03年開業)”が韓国スイーツを取り入れる形でリニューアルを遂げたが、そこには現地発のホットク、チョコミント、マカロンの店などの計9店が集まり、外観にはハングル表記もある。23年10月の自由が丘女神まつりでは「日韓フェス」として韓国系ブースが出店するなど、今後も街のひとつの要素になりそうだ。
今では韓国の流行がオシャレなものとして認識され、東京の街やカフェに溶け込みつつある。ソウルにも「東京」や「自由が丘」を冠した洋菓子店などが見られるが、その言葉にエレガントさが内包されているところに好感がもてる。
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