中国商務部は10月20日、「グラファイト(黒鉛)品目の臨時輸出統制措置の最適化及び調整に関する公告」を通じて「国家安全保障と利益を保護するため、グラファイトの一部品目について12月1日から輸出を統制する」と発表した。管理対象になった素材は、中国当局の許可なしに輸出することができなくなり、供給網の混乱が懸念される。
中国は7月にもガリウム、ゲルマニウムを輸出規制品目として指定しており、原材料の輸出規制の強化を図っている。今回、グラファイトを追加したことで、世界のサプライチェーンの混乱が懸念される。
今回、輸出規制の対象となるグラファイトは、高純度、高強度、高密度の人工グラファイト材料と、その製品で、天然グラファイトも含まれる。
グラファイトは電気自動車(EV)などのリチウムイオンバッテリーの材料に使われ、EVバッテリー製造において、単一素材として最も大きな比重を占める。
EVバッテリー市場はポスト半導体と目されており現在、企業間での開発・シェア競争が激しくなっている。特に韓国・日本・中国の企業が先行しており、熾烈なシェア争いを繰り広げている。
今年1~8月までの世界(中国を除く)EVバッテリーのシェア(SNEリサーチ調査)は1位がLGソリューションでSKオンが4位。サムスンSDIが5位と、ベスト5のなかに韓国企業が3社入っている。
中国の寧徳時代新能源科技(CATL)が2位、日本のパナソニックが3位だ。ただし、中国国内は中国EVバッテリー企業のシェアがほとんどを占めるため、現在は中国がEV電池のサプライチェーンの覇権を握っているといえる。
韓国にとって今回の輸出規制における問題は、中国にグラファイトの輸入を90%以上、依存しているという点。2023年1~9月現在、中国への輸入依存度は天然グラファイトが97・7%、人工グラファイトが94・3%に達する。
韓国貿易協会はこれを受けて、10月30日に「中国グラファイト輸出統制の影響及び対応策」報告書を発表した。報告書の分析では(1)短期的にはグラファイト規制施行前の11月までに在庫を十分に確保すること(2)中国は世界最大のグラファイト輸出国であり、自国内の需要だけでは供給過剰が発生する可能性がある。国内の経済も鈍化しており、規制実施から3カ月以内に解除される可能性が高いとの見方を示した。
グラファイトは06年にも輸出規制がかかった。規制後の中国の対世界グラファイト輸出は前年同期比24・4%まで下降、2カ月連続でマイナス成長を記録した。その後、施行3カ月目からは統制が一部緩和されたという経緯があった。
中国経済もけっして良い状況ではないことや、韓国は主要輸出対象国の一つで重要なマーケットであることから、今回も短期間で規制が緩和されるのではという見方だ。
韓国貿易協会は「今回の中国の輸出規制は、米国に対する報復的な措置と解釈されるため今後、米中関係が悪化した場合、米国に工場を持つ韓国バッテリー企業への輸出許可が遅延・取り消される可能性もある」とし、「中長期的にはモザンビーク、ブラジル、日本などに輸入先を多角化し、バッテリー産業でもグラファイトに代わるシリコン負極材技術を開発してサプライチェーンリスクを下げる必要がある」と指摘している。
いずれにしろ現在、全世界の鉱物市場は中国への依存が大きい。今後、政治的な争いが激しくなった時に、中国が資源を武器化する可能性は否定できない。 |