先月３０日から今月３日まで、在日コリアン１世・金達寿の小説『玄海灘』を舞台化した公演が、東京都調布市せんがわ劇場で上演された。全８回分のチケットは事前に完売し、各回が満席となる賑わいを見せた。
『玄海灘』は、金達寿が京城日報の記者をしていた植民地時代（１９１０～４５年）末期の体験を素材にしている。二人の若いコリアンが民族意識に目覚めていく過程を軸に、１９年３月１日の独立運動以降さまざまなかたちで積み重ねられた抗日独立運動の歴史などが、総体的な視点から描かれている。
６・２５韓国戦争中に発表されたこの作品では、同胞たちに同族で殺し合いをする愚かさ、また日本人には戦争に加担しないことを訴えた。植民地支配と抗日闘争の歴史が奥行きをもって語られ、なぜ在日コリアンが日本に定住しているのか、その歴史を読者に伝え、日本人に在日コリアンへの理解をよびかける作品であった。原作発表当時、芥川賞候補にもなった。
今回の上演では「劇団劇作家」の有吉朝子さんが脚本、東京演劇アンサンブルの志賀澤子さんが演出を担当した。
戦後７８年の今日の舞台化に際し、呉文子・異文化を愉しむ会代表は、「近代の関係下での暗い歴史から目をそらさず、金達寿先生がこの作品に込めた平和と共生のメッセージを継承し、日本と在日コリアンとの、民族を超えた人間的な関係を築く一助になればと願っている」と話した。

『玄海灘』という境界に置かれた、２人の若いコリアンの友情が作品のテーマ