名古屋市に、在日同胞の民族教育と日本社会における韓国語の普及に多大な貢献をしている学校がある。今年で開校60周年を迎える愛知韓国学園名古屋韓国学校だ。
現在は1世からのバトンを受け継ぎ、2世の張永植理事長と姜裕正校長が力強く学校を支えている。1960年代のはじめ、愛知県の在日韓国人らによる募金によって設立された名古屋韓国学校は、日本で初めて「民族教育50時間義務履修制」を提唱したほか、同校の教師が民団中央団長(故・丁海龍団長)に就任するなど在日韓国人社会で華々しい活躍を遂げてきた。
「最近は韓国語学習の動機が以前と全く違います。『ソウルに行って(俳優の)イ・ビョンホンに会いたいから』『バイリンガルになりたいから』という理由で学んでいますね」
張永植理事長は、様変わりした韓国学校の現在をこのように語る。同氏は鄭煥麒氏、権泰殷氏に続く同校3代目の理事長だ。
「私が子供の頃はもう少し後ろ向きな理由が多かったように思います。例えば、韓国人なのに韓国語ができないのは恥ずかしいと思って韓国語の勉強を始める、といった理由です。ところが今では気軽に始めますし、勉強する目的も明確です。ネガティブな時代からポジティブな時代へと移り変わったのですね」
韓国語を学ぶ場合、「アイデンティティー」といった重いフレーズがつきまとっていた時代から、笑顔で学ぶ時代に変わったという意味だ。日本でも保守色の強い名古屋で、同校が半世紀以上にわたり韓国語教育を続けられている秘訣は、同校ならではの伝統にある。開校当初から日本人にも門戸を広げてきたからだ。「韓国人のみを対象とした民族学校」ではなく「日本人とも共に韓国語を学ぼう」と手を差し伸べてきた。
張理事長に学校の特色を尋ねると「理事長になって20年が経ったが、私より長くこの学校に通っている生徒がいる」との答えが返ってきた。卒業をあきらめたという万年学生から入学したばかりの中高生まで、老若男女の生徒が同校を舞台として「韓国」を共通のテーマに友だちになっている。
「そういうのも教育ではないでしょうか。教室は常ににぎやかで、笑いの花が絶えないですね。ここに通うと誰もが楽しくなります」
生徒数は約250人。決して多いとは言えない数である一方、韓国文化を学ぶ空間として同校が持つ意味は特別だ。東京や大阪の韓国学校と比べて、母国と韓国政府からの関心が少ないのは残念だ。学校を授業料だけで運営するのは厳しいため、在日韓国人理事らによる寄付金や領事館の補助金で賄われている。しかし、ある程度の規模のイベントを開催したり、設備を更新するといった余裕はないのが現状だ。
インタビューの締めくくりとして、張理事長に韓国語が流暢な理由を尋ねた。
「小学生の頃、大学生の先生から韓国語を学びました。ある日、先生が『ヨンシクの字は奇麗だな』と言いながら頭を撫でてくれました。それがどれだけいい気分だったか。それを機にもっと勉強に力を入れるようになりました」(名古屋=李民晧)
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