散歩と猫を愛する詩人。
著者自身について明らかにされている情報はこれだけだ。
本書で描写されているのは、ひたすら著者自身が大切だと感じた、一瞬一瞬の光景ばかりだ。白を基調とした雪景色を好むと、冒頭で記している。夏のセミの声や海と川の比較など、自然を題材とした詩が多い。古今東西の詩人の作品を引用しながら、適宜自身の思索を深めている。
著者の魅力は、人間に対する深い信頼が、その根源としてあるように感じられる。年長者に対し当たり前のように抱く尊敬の念、幻視に悩むてんかん患者への温かな寄り添い。
「修道者にはなれなかった」と告白しているが、本書に通底する著者のまなざしは、きわめて慈悲深い。
隣りの部屋の住人たちが発するさまざまな音、文字を知らない姉がわりの人のために書いたラブレターなど、著者を取り巻く日常こそが、詩の源泉そのものだ。
本書は、戦争などの大きなテーマをうたっていない。自然や人間に対する親しみと情景描写のみで構成され、多くの詩が引用されている。詩集を読むのはハードルが高いと感じる人でも、自然と楽しめるエッセイ集となっている。
書肆侃侃房刊
定価=1760円(税込)
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