大法院(最高裁)の認定を受けた日帝時代の徴用被害者15人のうち、第三者機関「強制動員被害者支援財団(以下、支援財団)」の基金を受け入れるとした被害者10人に対し、政府が賠償金を支給した。強制徴用解決案の発表から1カ月後だ。しかし、韓日の経済界が合意した「未来パートナーシップ基金」への寄付は個人・企業を問わず「ゼロ」の状態が続いている。
(ソウル=李民晧)
両国合意を守った韓国
韓国政府は徴用被害者遺族に対し、第三者返済方式に伴う賠償金を支給した。これにより、韓日関係を阻んでいた両国間における徴用問題は最終段階に入った格好だ。
行政安全部傘下の支援財団は14日、2018年に最高裁で認定された15人のうち10人に対する返済金支給を終えた。残る被害者5人(遺族含む)は、日本側被告企業の賠償と謝罪等を要求し、受領を拒否している。そのうち2人は政府との対話を重ねており、今後妥協の余地があるとみられている。
外交部のソ・ミンジョン・アジア太平洋局長は13日、「政府は支援財団と共に、解決策の発表直後から15人の被害者と遺族に対して解決策を説明し、理解を得るよう努めてきた。今回の解決策をもって被害者と遺族の傷が癒されるよう努力し、今後も被害者一人一人に直接面会しながら説明を続けていく」と発表した。
1人あたりの賠償金額は、延滞利息を含めて2億~2億8000万ウォンだ。返済賠償金はポスコ(旧浦項製鉄)が寄付した40億ウォンと、在韓米商工会議所(AMCHAM)、民団系在日韓国人経営者らが出資した基金が元手となった。
追加の韓日基金はゼロ
上記のとおり、政府は徴用工の賠償問題終結に向けて力を注いでいるが、民間の反応は冷ややかだ。先月16日に行われた韓日首脳会談で、両国の経済界が合意した「未来パートナーシップ基金」は有名無実化し、実際に寄付された実績はゼロだ。当時、韓国の全国経済人連合会と日本の経団連は運営資金からそれぞれ10億ウォンを拠出した。しかし、首脳会談から1カ月が経過してもなお、財団に寄付した企業は1社もない状態が続いている。
訪日時に尹錫悦大統領が訴求した「(韓国と日本の)我々が皆で手を取り合い、未来に向けて共に進もう」という発言だけが宙に浮いている。企業だけではなく、個人からの寄付も一切ない状態だ。韓日請求権協定の締結時に恩恵を受けた韓国電力や韓国道路公社、KT(旧韓国通信)ですら基金を出し渋っている。こうした状況が続けば、「第三者による返済」という政府の案は正当性を失い、韓日間で再び徴用工問題が浮上する可能性さえ危惧される。
尹政府を追い込む歴史問題
尹政府をさらに窮地へと追い込んでいるのは、韓国内における反日感情だけではない。歴史に逆行するかのような日本の態度も問題だ。韓国内では、「日本は韓国の先制的措置に対して誠意を示すどころか、むしろ改善ムードに水を差している」という声が大半を占めている。
反日感情が強い国民世論を押し切り、「未来」を選んだ尹政府は困惑するばかりだ。日本の文部科学省は先月末、小学校教科書検定審査の結果を発表する際、「独島」を「竹島」と表記し、「徴兵と強制動員」の記述を縮小した。さらには、11日に発表された日本の『外交青書』でも「竹島は歴史的事実に照らしても国際法上も明らかに日本固有の領土。韓国は竹島の不法占拠を続けている」と主張した。
特に国内で問題視されている点は、朝鮮人強制労働に対して「歴代内閣の歴史認識を継承する」という内容を日本政府が削除した点だ。日帝による徴用は歴史的事実であり、「当然忘れるべきではない」という韓国人の認識に反している。
タイミングも悪かった。韓日関係改善のアクションを示してから1カ月もたたないうちに、日本が立て続けに歴史問題で逆行し、韓国国民を刺激したからだ。このようなスタンスが続けば、韓国では「屈辱外交」をあおる動きが活発化し、いずれはそれが定着する恐れがある。
「韓日関係の改善に舵を切った尹大統領の決定は正しい」と評価する声が多い。経済・国防問題が山積した状況で、いつまでも歴史問題に縛られているわけにはいかないからだ。しかし、韓国の決断がシナジー効果を生み出すためには、国内的な後続措置も早急に進めるべきであることはもちろん、日本側が誠意と配慮を示すことも必要不可欠だ。
今後、両国政府間におけるチャネルとは別途で、民間における意思疎通の窓口を開設し、懸案事項を解決するために膝を突き合わせていくことも必要だ。
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