昨年末、韓国文学翻訳院が主催する「2022年韓国文学翻訳賞」のウェブトゥーン部門で、岡山県在住の松末有樹子さんが新人賞を受賞した。松末さんは韓国のウェブサイト「ネイバー(Naver)」で連載されているウェブトゥーン『未来の骨董品店』を日本語に翻訳する過程でAIを利用。彼女が使用した翻訳機はネイバーの「Papago」だった。
翻訳業界を驚かせたのは、韓国語に明るくない外国人が、審査員の全員一致で翻訳賞を受賞したという点。松末さんは韓国語でコミュニケーションをとることは可能だが、会話の実力は不足しているという。松末さんが受賞できた理由として翻訳院は「ウェブトゥーンというジャンル的な特性も影響を及ぼした」と分析している。翻訳者は韓国語を完璧に使いこなすことができなくても、絵によって物語の流れを把握できるからだ。
一方で松末さんの韓国語力は決して侮れない、という指摘もある。審査員が全員一致で選出したほど、しっかりとセリフを翻訳できているということは実力不足にはあたらない、ということだ。翻訳業界ではかねてから機械翻訳が広く活用されており、表現のディテールにすぎないため何ら問題はない、という反論もある。
翻訳院は今回のケースを「翻訳とAIトレンドを表す事例」と見て、今後の新人賞公募制度を改善するための議論を行うと明らかにした。新人翻訳家を発掘するという趣旨に則り、翻訳新人賞の場合は「AIなどの技術を用いない自力での翻訳」といった規定を新たに設けるための議論がなされる見込みだ。
ともすれば、AI技術の発展に伴って翻訳家の技量がさらに試されることになるかもしれない。翻訳機やAIは、文化的な違いや人間の感受性までをも翻訳的センスとして発揮することができるのだろうか。
変革の時代、翻訳家はどのように自分のスタンスを確保するのか。そして今後はAIも新たな努力の形として認められることになるのだろうか。AI技術の発展は、翻訳という分野を衰退させる要因となるのか、引き続き注目していきたい。 (ソウル=李民晧)
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