3年間続いた朝鮮戦争が休戦した翌年、小学校を卒業した主人公・吉男が大邱へ移り住むところから物語は始まる。戦争中、吉男は家族と別れて暮らしていた。にもかかわらず、迎えに来た姉との道中は家族に会える喜びよりも不安が勝り、しょんぼりとしてしまう。
大邱は多くの戦争避難民であふれる町だった。吉男たちは、伝統家屋の敷地内にある低い場所に建てられた通称「下の家」と呼ばれる離れを間借りした。下の家にはほかに、様々な事情の3家族が住んでいた。
吉男は観察眼に優れ、大人が隠しておきたい裏側を見通せるような少年だ。苦労だらけの生活から抜け出すためには「長男である吉男が一人前の男になるしかない」という母親の言葉にも、素直に頷けない。「人間がどれほど利己的で、生存競争に勝つことがいかに大変か」を、知ってしまったからだ。
だが、どうしようもない暮らしの中でも、人は何かしらの願いを持ち続けている。吉男自身も例外ではない。本作が英語、ドイツ語など6カ国語に翻訳され、30年経った今でも読み継がれていると聞いて、得心がいく作品だ。
クオン刊
定価=2420円(税込) |

- 2023-02-15 6面

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